大学1年生でバックパッカーになって以来「旅」の魔力に取り憑かれ、15年間で訪れた国70カ国以上。オンライン記事「経済制裁下のイランに行ったら色々すごかった」が世界ウェブ記事大賞を受賞し、今もっとも注目される旅ライターのひとり岡田悠氏。初の著書『0メートルの旅 日常を引き剥がす16の物語』は、「コロナ禍の今読めてよかった」「無性に旅に出たくなった」「何度も笑って、最後に泣いた」など大絶賛を受けています。
岡田氏は「どこにいても旅はできる」と言い切ります。旅行に行けない今、息苦しくも感じてしまう日常を、たった1分のちょっとした工夫で「旅」にする方法を聞いてみました。(取材・構成/川代紗生)
ルールを1つ足すだけで、日常は旅になる。
──岡田さんは『0メートルの旅』という本のなかで、「『遠くに行くこと』だけが旅ではない。日常の中に非日常を見出し、予定不調和を愛する心があれば、いつでも、どこでも、旅はできる」と、距離の制約を受けることのない、新たな「旅」の在り方を提案されていましたね。
岡田悠(以下、岡田):なかなか海外に行けない時期が続いていて、旅行欲をどう発散させようかと、僕も旅好きな人たちとよく話しています。ただ、僕は南極だろうが、部屋の中だろうが、どこにいても「新しい旅」は始められると思っています。
この本を書く過程でも、ずっと「旅ってなんだろう」と考えていました。僕が思いいたったのは、「定まった日常を引き剥がして、どこか違う瞬間へと自分を連れていくこと。そして、違う瞬間へ行ったことで鮮やかに感じられるようになった日常へ、また回帰すること」が旅なんだなと。
旅ってすごく創造的な行為だと思うんです。予想外のことを受け入れるとか、会社の帰り道にいつもと違う道を通ってみるとか、何かいつもの「定まった日常」のパターンを崩してみる。それだけで、旅はつくれます。
たとえば子どものころ、道草していた途中で「道路の白線の上だけを歩いて帰れるかチャレンジしてみよう」とか「途中で見つけた石ころを家に帰るまで蹴り続けられるか」とか、勝手に自分のなかでルールをつくって遊んだことってなかったですか?
──ありましたありましたありました。
「白線から落ちたら死ぬ!」とか思いながら道草に夢中になった瞬間って、冒険そのものじゃないですか。僕にとっては、あれも旅なんです。
だから、どこにいても旅はできる。定まった日常に、1個でも自分のつくったルールや世界観をプラスしてみる。それだけで、いつもの場所も見え方が変わって、すごく楽しくなってきたりします。
1988年兵庫県生まれ。ライター兼会社員。有給休暇取得率100%。そのすべてを旅行に突っ込み、訪れた国は70カ国、日本は全都道府県踏破。note、オモコロなどのwebメディアでエッセイを執筆し、旅行記を中心に絶大な人気を博す。本書収録のイランへの旅行記で「世界ウェブ記事大賞」を受賞。『0メートルの旅』が初の著書。
──いま、ますます旅行がしにくい状況ですけれど、日常を旅に変えるにあたって、最近はどんなことをしていますか?
岡田:たとえば仕事の昼休みや、休憩中にスマホを触る瞬間など、そんな短い時間でも少しの工夫でちょっとした旅になると思うんです。
僕は、日常的にやっている、ちょっとした遊びが3つあって。
(1) 同じ店に1日2回行く
1つは、同じ店に1日2回行くこと。ラーメン屋とか定食屋とか、新しい店を見つけたら、昼に行って、夜になったらまた行く。店員さんも「うわっ、あいつ、昼も来たのにまた来た!」みたいになって、すぐ覚えてもらえたり、びっくりされたり、ちょっとした会話が生まれることもあります。日常の何気ない出来事でも、同じことを連続して2回、3回とやってみると面白くなったりします。
──なるほど。退屈に思いがちなひとり飯の時間も、ちょっとの工夫で新鮮な見方ができそうですね。
(2) Twitterのトレンドをよく知らない国に設定
岡田:2つ目は、Twitterのトレンドを、全然知らないちょっと珍しい国に設定すること。
──え? できるんですか、そんなこと!?
岡田:トレンドって地域設定できるんですよ。Twitterのアプリですぐに変えられます。「話題を検索」の設定を見ると、「場所を調べる」というタブが出てくるので、たとえば、コスタリカに設定してみたり。
──ほんとだ…! わたし、コスタリカのこと全然知らないです。
岡田:僕もです。そうすると、訳のわからないワードとか、全然知らない有名人とかがトレンドに入っていたりします。言語がわからなくても、翻訳を表示できますし。日本のトレンドを見ていると、炎上していたり、事件が起きていたり、ちょっと疲れちゃうこともあるじゃないですか。だから僕は、しばらく日本のトレンドを見たくないときは、別の国に設定して遊んでいます。
──そんなことやろうとも思わなかったです(笑)。でもたしかに、これだけで簡単にいつもと違う気分が味わえますね。
(3) いらないものを検索してターゲティング広告を誘導
岡田:3つ目はめちゃくちゃしょうもないんですけど、仕事の小休止がてら、昼休みや休憩時間に、Amazonとかでいらないものを検索して、クリックしまくるんですよ。
──いらないものを検索しまくる!?
岡田:たとえば、アメリカの広い庭で使うような芝刈り機を調べてクリックしまくる。そうすると、ターゲティング広告が全部芝刈り機になります。
いろんな芝刈り機がリコメンドされて、「うわー、こんな芝刈り機あるのかー」みたいな。広告が全部その人にカスタマイズされるのを利用して、自分の絶対いらないものを表示させると、「こんなの買う人いるんだ!」って面白くなってきます。
──たしかに、最近の広告のカスタマイズはすごいですからね。
岡田:ワードは適当で、何でもいいんです。思いついたものをバーって打ち込んだら、たいてい何でも出てくるので。ターゲティング広告って追われる感覚がありますけど、それを利用するんです。「こっちが誘導してやってるぞ」感が出て、面白くなってきます。
やったことないですけど、絶景の写真集とかを調べまくったら、綺麗な景色が出てきたりして、広告画面を綺麗にすることもできるかもしれない。小さなことですけど、それでも気分は変わってきますよね。