奇しくも同じコロナ下に、「旅の本」が2冊出版されました。
『0メートルの旅』と『旅を栖とす』。
著者の岡田悠さんと高橋久美子さんの特別対談をお届けします。(構成:編集部/今野良介)
田舎で電車を乗り間違えたら、歌詞が生まれた
岡田悠(以下、岡田):高橋さんの『旅を栖とす』は、社会人になってからの旅行記が多いですよね。いつから海外に行き始めたんですか?
高橋久美子(以下、高橋):昔はそんなに。チャットモンチーというバンドをやってて、武道館のライブ後にまる1ヵ月ぽっかりスケジュールが空いたんです。そこで、初めて本格的なバックパック旅行に行きました。
岡田:貴重な休みを旅にぶっ込んだんですね。
高橋:なんだか、違う世界を見たいなと思って。
作家・詩人・作詞家
ロックバンド「チャットモンチー」のドラマー、作詞家を経て2012年よりもの書きに。1982年愛媛県生まれ。詩、エッセイ、小説、絵本の執筆の他、様々なアーティストへの歌詞提供や絵本の翻訳など、創作活動を続ける。主な著書にエッセイ集『いっぴき』(ちくま文庫)、詩画集『今夜凶暴だからわたし』(ミシマ社)、絵本『あしたがきらいなうさぎ』(マイクロマガジン社)等。翻訳絵本『おかあさんはね』は第9回ようちえん絵本大賞を受賞。4月に初の短編小説集『ぐるり』を筑摩書房より発表。詳しくは公式HP:んふふのふ
岡田:若い頃にする旅と、大人の旅で違いってあると思います?
高橋:うーん、私はそんなに変わらないかもなあ。ただ、知識や経験が増えた分、見え方が変わるというのはあるかもしれません。
岡田:僕、開高健さんの旅エッセイが好きで、その中で「少年の心で、大人の財布で歩きなさい」という言葉が出てくるんですよ。若い頃の貧乏旅行に比べると懐に余裕がある分、好きなものを食べられたり、現地で飛び入りツアーに参加できたり。そういうのはいいなって思います。
高橋:確かに、選択肢は増えますよね。
岡田:違う街に面白いものがあったとする。その時に、大人の財布があった方がフットワークが軽いんですよね。
高橋:逆に「予定通りじゃない旅」ができると。
岡田:「旅」って聞くと、若者のバックパック旅行か大人のリゾート旅行かに二極化してる傾向があると思うんですけど、もっと違う形の旅ができると思っています。
高橋:岡田さんは会社員をやりながら旅行してますよね。どうやって時間をつくるんですか?
岡田:全部有給です。先に休みをとっちゃいます。
高橋:それで通るんですか?
岡田:とっちゃってるので、もう通すしかないんですよね。どう通すかは、とってから考える。高橋さんは、旅と仕事は切り分けてますか?
高橋:私は、旅をしているといい歌詞を書けることがあるんです。だから離れてはいないかな。
岡田:例えばどんな時に?
高橋:旅にいくと、ぼうっとする瞬間がいつもより生まれやすい。それがすごく重要だと思うんです。例えば一度、これは国内の話なんですけど、田舎で電車を乗り間違えたことがあって。無人駅で2時間、することがなくなりました。
岡田:2時間、ぼうっと。
高橋:そしたら歌詞が浮かんできて。それで完成したのが、原田知世さんの『銀河絵日記』という歌です。
岡田:確かに「旅」という単語が歌詞に出てきますね。そんなストーリーがあったとは。
私の銀河描きましょう
ひとつ ふたつ みっつ よつ
辿り着くだけが旅じゃない
(『銀河絵日記』(歌:原田知世/作詞:高橋久美子/作曲:伊藤ゴロー)より引用)
高橋:仕事に追われてたりすると、日本ではぼうっとすることがどんどん難しくなっていて、だから旅は大事な時間ですね。