日米台が半導体の国際連携強化を一気に進めたことで、割を食った国がある。韓国だ。国際的な枠組みから脱落しかねない状況に焦燥感を深めた韓国陣営は、なりふり構わぬ方策に打って出ようとしている。その一つが、東芝からメモリー事業を分社してできたキオクシアホールディングスへの買収提案である。特集『半導体 最後の賭け』の#8では、韓国半導体メーカーがキオクシア争奪戦で繰り出す衝撃の一手を、メモリー業界の再編図と共に予想する。(ダイヤモンド編集部副編集長 浅島亮子)
SKグループ会長が岸田首相に面会
韓国財界人“訪日ラッシュ”の背景に焦燥感あり
台湾積体電路製造(TSMC)の日本誘致と国策半導体企業ラピダスの設立――。日本・米国・台湾をまたぐ二つの国策半導体プロジェクトの全体像が見えつつあった昨年9月のこと。アジア企業の経営者が集うアジアビジネスカウンシルフォーラムで、韓国産業界のある大物が岸田文雄首相と顔を合わせた。
その人こそ、世界第3位の半導体メーカー、SKハイニックスを傘下に持つ韓国財閥SKグループ会長であり、大韓商工会議所会長を兼任する崔泰源(チェ・テウォン)氏である。
面会の第一義的な目的は、韓国釜山市の万博誘致計画について日本の賛同を取り付けることにあった。ただし、その場では日韓経済の懸念事項についても意見交換がなされたという。
その具体的な内容は定かではないが、崔氏の日本側への要望には、2019年に強化された日本の“対韓輸出管理(対象は半導体材料の3品目)”の見直しが含まれていたかもしれない。
当時の文在寅・韓国政権は元徴用工訴訟を提起するなど反日姿勢を鮮明にしていた。日本はそれを制裁措置とは認めていないが、輸出管理を強化したタイミングに政治的判断が絡んだことは事実である。日本の半導体部材に依存する韓国が、日韓関係の改善の旗印として規制解除を求めるのは自然なことだ。
崔氏だけではない。ここ1年で、韓国半導体メーカーのキーパーソンによる訪日が相次いでいるようだ。韓国サムスン電子の半導体部門やSKハイニックスの幹部らが経済産業省の担当部局や国内関連産業関係者の元を訪れている。
“日本詣で”を後押ししているのは、韓国陣営の焦燥感に他ならない。というのも、韓国の半導体産業は未曽有のピンチに見舞われているからだ。22年10~12月期決算では、サムスンの半導体事業の営業利益は前年同期比97%減の2700億ウォン(約280億円)へ急落。SKハイニックスも同期に10年ぶりとなる営業赤字に転落した。
実は、業績暗転の理由は約4年周期で訪れる半導体市況悪化のシリコンサイクルだけにあるわけではない。危機が一過性ではなく長期的停滞につながると踏んでいるからこそ、韓国陣営の焦りはピークに達しているのだ。次ページでは、韓国が直面している半導体危機の構図を分かりやすく解説する。
そして韓国は、現状を打開するためになりふり構わぬ方策に打って出ようとしている。その一つが、東芝からメモリー事業を分社してできたキオクシアホールディングスへの買収提案だ。韓国がキオクシア争奪戦で繰り出す衝撃の一手を、メモリー業界の「新・再編図」と共に予想してみよう。