「……はい」
全面的な有罪判決を告げる裁判長。内容はわかりますね、確認され頷いた被告人の表情には、判決に納得できない思い、長かった公判が節目に至った脱力感、今後への憂いなど、さまざまな感情が交錯しているように見えた。15回の公判で、4人の弁護団の傍らに座り、左手に握ったペンを小まめに動かし続けてきた、いつもの自信あり気な所作とは違っていた。
1月19日。津地方裁判所の柴田誠裁判長は、小野薬品から抗不整脈剤「オノアクト」の処方増の対価として奨学寄附金200万円を受領した第三者供賄罪など3罪を認め、三重大学医学部附属病院臨床麻酔部の元教授・亀井政孝被告(56歳)に対し、懲役2年6カ月、執行猶予4年の有罪判決を下した。
通称「オノアクト事件」と呼ばれる今回の汚職事件。これで臨床麻酔部の元教授、准教授、講師、小野薬品の担当MRと中部営業部長、関連事件で日本光電社員3人と、起訴された8人全員に津地裁が有罪判決を下したことになる。
亀井被告の弁護団は高裁への「控訴を検討中」(1月26日現在)。事件は終結したわけではないが、一定の証拠や供述は出揃った。
医療の中核となる大学病院の「医局への通行料」とも言われ続けてきた奨学寄附金。使途のチェックが甘く自由度の高い資金が欲しい医師、営業ツールにしたい製薬企業の阿吽の呼吸で、63年の制度創設から60年間も存続してきた。“還暦”を迎えた今、いかにして「賄賂」の烙印を押されたのか。