変化が激しく先行き不透明の時代には、私たち一人ひとりの働き方にもバージョンアップが求められる。必要なのは、答えのない時代に素早く成果を出す仕事のやり方。それがアジャイル仕事術である。『超速で成果を出す アジャイル仕事術』(ダイヤモンド社)は、経営共創基盤グループ会長 冨山和彦氏、『地頭力を鍛える』著者 細谷 功氏の2人がW推薦する注目の書。著者は、経営共創基盤(IGPI)共同経営者(パートナー)で、IGPIシンガポール取締役CEOを務める坂田幸樹氏だ。業界という壁がこわれ、ルーチン業務が減り、プロジェクト単位の仕事が圧倒的に増えていく時代。これからは、組織に依存するのではなく、一人ひとりが自立(自律)した真のプロフェッショナルにならざるを得ない。同書から抜粋している本連載の書下ろし特別編をお届けする。

なぜ「社長がひとりで事業戦略を考えている会社」は成功できないのか?Photo: Adobe Stock

事業の定義が変わった

 一昔前まで、事業の定義は「誰に」「何を」売るかでした。その時代には、社長が事業戦略を考えて、現場が実行することが極めて有効でした。

 例えば、トヨタ自動車の経営陣がタイの中間層向けにカローラを売ることを決定し、後は現場に委譲するといった進め方です。結果、日本の現場力は高まり、現場発の「Kaizen」活動は世界的にも知られることとなりました。

 しかし、デジタル革命の影響によって、事業の定義が「誰に」「何を」「どうやって」売るか、に変わりました

 例えば、自動車という移動手段をタイの中間層に提供する場合、前述のように「カローラを売る」以外にも、「ウーバーやグラブのようなライドシェアを提供する」、「オンデマンド型のカーシェアリングを提供する」といった手段が考えられます。

社長がひとりで事業戦略を考えるのは無理

 これらのサービスはデジタル革命、さらに言うとスマホ革命によって実現したサービスです。そして、これらを事業として考えるときには、「どうやって」が極めて重要な役割を担います。

 なぜならば、最新の技術動向を理解していなければ、サービス設計はできないからです。上記の例で言うと、量子コンピュータの応用研究動向を把握していなければ、せっかくリリースしたライドシェアサービスが数ヵ月後には全く競争力のないサービスになってしまう可能性もあります。

 また、デジタル革命によって、ニッチなユーザーの細かいニーズにも対応できるようになりました。前述のウーバーやグラブは、滞在国によってアプリのインターフェースが自動的に変わって、ローカルユーザーに合わせたサービスを提供できるような仕様になっています。

 ここまで進化してしまうと、スタートアップや中小企業の社長はともかく、中堅企業以上では、本社の経営陣や経営企画がいくら優秀だったとしても、解像度の高い事業戦略を考えることは難しいでしょう。

社長がやるべきことは、パーパスの設定と資源配分

 では、このような時代における社長の役割とは何なのでしょうか。それはパーパスの設定と資源配分です。

 日本企業にも、昔から経営理念というものがありますが、それはあくまで、社長がどの様に経営を行っていくか、事業を定義するか、という方針に過ぎません。現場が事業を定義していくこれからの時代には、会社の存在意義であるパーパスの設定が極めて大切なものになります。

 また、現場に裁量を与える一方で、一定の制約がないと現場は自由に考えることができません。そのために必要なのがヒト、モノ、カネ、情報などの経営資源の配分ということになります。

 パーパスの設定と資源配分をせずに現場に権限を委譲すると、方向性なきまま現場が好き勝手にやって、収集がつかなくなります。現場から変える現場改革は、もはや好結果には繋がらない事を覚えておいてください。

アジャイル仕事術』では、働き方をバージョンアップするための技術をたくさん紹介しています。

坂田幸樹(さかた・こうき)
株式会社経営共創基盤(IGPI)共同経営者(パートナー)、IGPIシンガポール取締役CEO
早稲田大学政治経済学部卒、IEビジネススクール経営学修士(MBA)
大学卒業後、キャップジェミニ・アーンスト&ヤングに入社。その後、日本コカ・コーラ、リヴァンプなどを経て、経営共創基盤(IGPI)に入社。現在はシンガポールを拠点として日本企業や現地企業、政府機関向けのプロジェクトに従事。細谷功氏との共著書に『構想力が劇的に高まる アーキテクト思考』(ダイヤモンド社)がある。『超速で成果を出す アジャイル仕事術』(ダイヤモンド社、2022年6月29日発売)が初の単著。