輸送需要の減少による「余裕」を
分け合う新たなサービスに期待

 それでもサイクルトレインを模索する動きが大手私鉄で相次いでいる。京王電鉄は今年1月28日、座席指定列車「Mt.TAKAO号」でサイクルトレインの実証実験を実施した。定員は6人で、自転車は10号車の座席にベルトで固定する。京王新宿駅のホームは地下2階にあり、参加者自ら自転車を持って階段を下りた。

 京王によると募集開始から1週間程度で枠は埋まり、参加者の評価も概ね高かったという。新宿駅まで自転車で来た人、輪行で運んできた人のどちらもいたそうだ。もっと台数を増やしてほしいという要望を受け、京王は早速、3月4日、11日に定員を倍の12人に拡大した実証実験第2弾を実施する。

 また東武鉄道は日光線・鬼怒川線(東武日光~下今市~鬼怒川温泉間)で昨年11月から今年4月まで、西武鉄道も昨年11月、新宿線(井荻~本川越間)は特急「レッドアロー」、池袋・秩父線(秋津~西武秩父)は座席指定列車「S-TRAIN」を用いた実証実験を行った。

 大手私鉄が関心を示しはじめたのはコロナ禍で輸送需要が減少したことと無関係ではないだろう。これまで旅客だけを運んでいた列車は、余剰の輸送力で荷物輸送などを模索している。

 収益性が低下した鉄道事業者は、合理化という名の下、列車本数や車両数を需要に見合った規模に削減しているが、図らずも生まれた「余裕」は、事業者と利用者で分け合うのが望ましい。

 分かりやすい例で言えば、コロナ禍以降、通勤列車の混雑率は大きく低下したが、同じ割合で輸送力を減少させたら、混雑率は元通りになってしまう。減便による合理化と混雑緩和による快適性向上は両者で分け合うべき果実だ。

 人口減少で長期的には需要は減る一方だ。鉄道の役割を保ち続けるには「余裕」から新しい価値を生み出さなければならないし、これはチャンスでもある。観光地に自転車を持ち込めれば行動範囲は格段に広がり、地域の活性化にもつながるだろう。今後は自転車愛好者でなくとも、自転車と一緒に出かけるという選択肢ができれば面白い。

 欲を言えば、もうひとつ。かつて上野~函館間で運行された「MOTOトレイン」、つまり自転車ではなくバイクを乗せて走る列車にも触れておきたい。ライダーにとって北海道ツーリングは夢だが、フェリーでの往復は時間がかかる。ニッチだがニーズをつかんだ商品だった。青函トンネルが新幹線専用になった今となってはそのままの形では困難だが、こんな遊び心も忘れないでほしい。