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「3月19日をもって職を辞することを総理に申し上げました」
2月5日夕刻、首相官邸で経済財政諮問会議を終えた日本銀行の白川方明総裁は記者団に歩み寄り、4月8日の任期切れ前に辞任すると突如表明した。2人の副総裁の任期が3月19日に切れるため、総裁も揃って交代したほうが新体制にスムーズに移行できるという。
衆参両院の同意を得て内閣が任命する正副総裁の人事を巡っては、前回の2008年春に衆参ねじれ国会によって難航。このとき同時に就任するはずだった現在の正副総裁の任期に約3週間のズレが生じていたため、これを解消する“前倒し辞任”との説明だ。
確かに金融政策決定会合の予定を見ていくと、2月13~14日、3月6~7日、そして4月は3~4日と26日の2回。ズレが生じたままだと、4月初めの会合は退任間近の現総裁と、新任の副総裁という組み合わせになってしまう。
もっとも、このタイミングでの辞任表明には疑問の声も上がる。この日の夜に急遽開いた会見で白川総裁はその理由について、「1月の会合で決定した内容について国内外での説明を終えたため、環境が整った」と述べた。裏を返せば、白川体制での残り2回の会合(2、3月)では、特段説明が必要な手は打たないという意味にも取れる。
1月の会合で日銀は2%のインフレ目標を設定。その達成が困難なことは国内外を問わず機関投資家の共通認識だが、こと海外勢は「今後、日銀が劇的な緩和策を出すと本気で思っている」(佐々木融・JPモルガン・チェース銀行債券為替調査部長)。そんな中、少なくとも白川体制下では何も出てこない印象を市場に与え、焦点は「4月の会合に移った」(市場関係者)格好だ。新体制発足に向けて、次なる緩和策の温存に成功した、と見ることもできる。
一方、正副総裁人事は複数案が挙がっているが、「いつ、どこに提示するかさえ定まっていない」(政府関係者)。国会同意が必要な人事は他にも目白押しで、既に昨年空席となった公正取引委員会の委員長やNHK経営委員の提示が先。政府は補正予算も2月中には通したい意向で、2月20日頃を予定する安倍晋三首相の訪米前に人事を提示するのは困難な情勢だという。