ここで重要なのは各国の成長率です。たとえばインドでは、ある年は10%のマイナス成長で、別の年には9%のプラス成長でした。しかも、これは14億人の人口を抱える国で起こったことです。中国でのロックダウンは、中国だけでなく世界の不平等に深刻な影響を与えています。

 そしてまた、(コロナ禍への対策として進められた)裕福な国の政府による非常に大規模な所得移転が、その国の不平等を減少させました。しかし、2020年に米国の不平等が減少したとしても、それ以降も続くとは限りません。はっきりとしたメッセージをお伝えできないのが申し訳ないのですが、私たちは、非常に矛盾した展開の中で、大変不確実な状況下に置かれているのです。

それでも「グローバル化」を信じられる理由

――ロシアのウクライナ侵攻に直面して、グローバル化の中で進んできた経済統合が平和と自由を促進するのではなく、権威主義的支配者に利用される可能性があることを指摘している思想家が少なからずいます。私たちはこれまで思ってきたようなグローバル化の終焉を目の当たりにしているのでしょうか。それとも、これは一時的な後退に過ぎないのでしょうか。

 私はやや楽観的です。つまり、私はこれが「一時的な後退」であると思っています。

 グローバル化の背後には、2つの基本的な力があります。1つ目は、技術的な変化です。まずは、技術革新とともに、グローバルな資金移動が可能になり、国境を越えたコミュニケーションが可能になったことです。そして、コロナ危機であらためて注目されているように、(オンラインで)グローバルな労働市場が可能であることも、人々は発見しました。これが1つ目の力です。

 そして2つ目の力は、自己利益を追求しようとする力です。単純な例としては、同じ仕事をする人間を、国内よりもグローバルに雇った方がずっと安く済む、ということです。デメリットもありますが、2番目の利点は明らかです。これは、(比較優位の概念を唱えた)デビッド・リカードにまで遡れる、明らかなメリットです。