叱らなくても困った行動がなくなる超・効果的な方法

 いまの言葉がけとは別に、問題を抱えた生徒たちに当事者意識を持ってもらうための方法として、僕が長年実践してきた「魔法の言葉がけ第2弾」があります。

 それは、30代のころの僕が、生徒たちとのかかわりの中で自分なりに編みだしたものです。僕はそれを「タイムマシン・クエスチョン」と呼んでいます。

 心理学者の黒沢幸子さんが書いた『タイムマシン心理療法 未来・解決志向のブリーフセラピー』(日本評論社)という、すばらしい本があります。

 そこで紹介されている「タイムマシン・クエスチョン」という手法が、あまりにも僕の問いかけ方と似ていたので、その本に敬意を表して勝手にそう呼ばせてもらっています。

 その手法を君にも紹介しましょう。もしかすると、僕が紹介する方法は黒沢さんが紹介する方法とは厳密には異なっているかもしれません。心理学に興味のある方は、ぜひ黒沢さんの本を読んでみてください。

 たとえば、なにかにムカついて、トイレのドアを蹴って壊してしまった男子生徒がいるとしましょう。まず、その生徒に「時間を超えて、未来を想像してもらう」のです。

「ところで、20歳になったころの君は、どんなことをしていると思う? 大学生? 働いている?」

 などと問いかけながら、自由に想像をめぐらせてもらうのです。すると、だんだん「彼女がいる」「バイトしてる」「一人暮らししてる」などと、いろいろ答えてくれるようになります。

 ポイントはここからです。

 僕は「じゃあ、20歳の君は、いまみたいな行動(トイレのドアを蹴って壊す)をしていると思う?」と問いかけます。

 生徒は、まさか! といった顔で「もちろんしてないよ」と言うので、「そりゃそうだよね。それはなぜ?」

 すると、ほとんどの生徒は「カッコ悪いから」など、本当の理由を教えてくれるわけです。そこで、「そうかあ(笑)。じゃあ、いまのような行動はいつごろやめたのかな? 高校のころ?」とさらに問いかけます。続けて、「誰かが『やめろよ』と言ったって、やめられるわけじゃないよね」と付け加えます。こう言われた生徒はしばらく考え込んだのち、こう答えます。

「明日……今日かな」と。

 なぜ、この生徒が行動を止める方向に気持ちが動いたのだと思いますか?

 それは「自分の行動を決めるのは自分自身だ」と気づいたから。つまり、自分の行動の責任を担っているのは自分しかいない、という「当事者意識」を持つことができたからです。