追いつめられたときにこそ必要な「自分へのやさしさ」とは?

──​もし読者の方が深い悲しみ、つらい状況に陥ったときに、気持ちを立て直す方法はありますか?

川野:喪失体験など、深い悲しみを抱えた患者さんたちにアドバイスさせていただいている方法の一つに、「等しく思いやりを向けるワーク」というものがあります。

──​「等しく思いやりを向ける」というと?

川野:これは、海外の心理ケアとして紹介されていたものを私が取り入れたものですが、「等しく思いやりを向ける瞑想」と呼ぶこともあります

やり方は非常にシンプルです

「今自分が抱えているこの悲しみとまったく同じ悲しみを、大切な人が抱えて落ち込んでいたとしたら、その人になんと言葉をかけてあげるだろう?」と考えていただくのです。

そして、その言葉を自分自身に向けて、心の中で伝えてあげる。それだけです。

これは一見とても簡単な瞑想に思えますが、実はとても効果的な手法なんです。

私たちの多くは、大切な人には優しい励ましの言葉をかけることができるのに、自分に対してはそれができないという傾向があります。

だからこそ、心の中であえて、他者と自己を平等に扱って声をかけるというこの瞑想が助けとなるのです。

チョン・ドオン先生の『こころの葛藤はすべて私の味方だ。』の本の中にも、心に生じた怒りや悲しみなど、私たちを苦しませる感情との向き合い方や、すぐに用いることのできる手法がいろいろと紹介されています。

日々の心の整え方を学びたい方は、この本をぜひご一読いただくといいと思っています。

川野泰周(かわの・たいしゅう)
精神科・心療内科医/臨済宗建長寺派林香寺住職
精神保健指定医・日本精神神経学会認定精神科専門医・医師会認定産業医。
1980年横浜市生まれ。2005年慶應義塾大学医学部医学科卒業。臨床研修修了後、慶應義塾大学病院精神神経科、国立病院機構久里浜医療センターなどで精神科医として診療に従事。2011年より建長寺専門道場にて3年半にわたる禅修行。2014年末より横浜にある臨済宗建長寺派林香寺住職となる。現在寺務の傍ら都内及び横浜市内のクリニック等で精神科診療にあたっている。
主な著書に『会社では教えてもらえない 集中力がある人のストレス管理のキホン』(すばる舎)、『半分、減らす。「1/2の心がけ」で、人生はもっと良くなる』(三笠書房)、『精神科医がすすめる 疲れにくい生き方』(クロスメディア・パブリッシング)、『「精神科医の禅僧」が教える 心と身体の正しい休め方』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)などがある。