武器供与はいつも「小出し」
欧米の「中途半端な支援」の真意とは
筆者の目には、この状況が不可解に映る。米英をはじめとするNATO側は、ロシアに大打撃を与え、ウクライナが失った領土を回復させ、戦争を終わらせようと本気で考えているのだろうか。
もしそうであれば、欧米諸国は武器供与を小出しにするのではなく、戦局を大きく変えられるだけの大量の武器を早めに供与していたはずだ。特に米英は、戦争を延々と継続させる目的で、中途半端に関与しているように思えてならない。
この連載では、そうした姿勢の意図を読み解くべく、ウクライナ紛争における米英の関与に焦点を当ててきた。
というのも、実は米英は、開戦前からロシア軍の動きを完全に掌握していた(第304回・p2)。当時、約9万人のロシア兵がウクライナ国境沿いに集結していたことも知っていた。いざ戦争が始まると、ロシア軍によるウクライナへの侵攻ルートも的中させた。
開戦直後、ウクライナ軍がロシア軍の経路や車列の規模などを把握し、市街地で待ち伏せして攻撃したことがあった。ロシア軍は多数の死者を出したが、この戦果も米英の情報機関の支援があってこそだった。
ここでも、米英の動きには疑問が付きまとう。ロシア軍の動きをそこまで詳細に把握・予測しているならば、なぜ事前に戦争を止めようとしなかったのか。
その問いに対し、筆者がたどり着いた答えは「米英にとってウクライナ紛争は、損失が非常に少なく、得るものが大きい戦争だから」というものだ。そう言い切れる要因を、経済の観点から説明していこう。
1960年代にソビエト連邦(当時)と欧州の間にパイプライン網が敷かれて以降、欧州諸国はロシア産の天然ガスや石油にエネルギー源を依存してきた。
ウクライナ紛争が勃発する前まで、欧州連合(EU)は天然ガスの4割をロシアから輸入していたという。また、ロシアが海外に輸出する原油の5割超を欧州向けが占めていたとされる。
一方で、実はパイプライン網が敷かれる前まで、欧州の石油・ガス市場は米英の大手石油会社の牙城であった(第304回)。パイプラインの敷設を機に、米英はソ連に覇権を奪われ、約60年にわたって悔しい状況が続いていたことになる。
そうした中でウクライナ紛争が始まり、欧州各国はロシア産の石油・天然ガスの禁輸措置を始めた。これは米英にとって、欧州の石油・天然ガス市場を取り戻す千載一遇の好機だったといえる。