除去土壌の「福島県外の最終処分」
を知っている人は約2割

――小泉進次郎さんが環境大臣をされていた当時、電力は首都圏で使用しているものなのに、事故が起こるとその被害を福島に負わせる、それで果たしていいのだろうかということを、しきりに訴えていたことが印象的でした。

 東日本震災から12年がたち、そもそも「なぜ県外で最終処分しなければならないか」というのを忘れている人、知らない人も、増えてきているような気がするのですが、そのことを思い出してもらうような啓発活動は行っているのでしょうか?

馬場 「中間貯蔵を開始して30年以内に除去土壌等を福島県外で最終処分をするということが法律で定められていることを知っているか」というアンケートを2021年に行ったんです。福島県内では約5割(N=635)、福島県外では約2割(N=3978)の人しかご存じなかったんですね。

 そのため、この問題を知ってもらい、国民の皆さんに共に考えていただくための情報発信に、今後はより力を入れていかなければならないと思っています。

 福島の風評の払拭、避難解除された地域での生活、最終処分場の受け入れなどのためには、放射線が生活や健康に与える影響を正しく理解してもらうことが重要であるため、こうした「リスクコミュニケーション」も積極的に行っていきますし、脱炭素と復興を掛け合わせた未来志向の環境施策の推進なども行っていこうとしているところです。

福島の原状や環境再生について
海外の反応

志村さん環境省 環境再生・資源循環局 福島再生・未来志向プロジェクト推進室 主査の志村あゆみ氏 提供:環境省

――こうした説明は、諸外国に対しても行っているのでしょうか?

志村あゆみ氏(以下、志村) そうですね。昨年も、エジプトで開催されたCOP27(国連気候変動枠組条約 第27回  締約国会議)のパビリオンに出展し、訪れた世界各国の政府機関やメディアの方々へ、福島の現状や環境再生についてご説明いたしました。

 その前年のCOP26のジャパンパビリオンで実施したセミナーでは、開始前に約30席が満席となり、セミナー会場の外にある同時配信モニターで視聴される方々もいらっしゃいました。

――どういったフィードバックがありましたか? 応援の声以外にも不安の声もありましたか?

志村 「福島を知っていたけれど、今どうなってるのかという情報はなかなか入ってこなかったので、気になっていたよ」とか、「素晴らしい。なんて勤勉なんだ、日本人は。そのような大規模の事業、ちょっとあり得ないというか、想像できないな」といったお声をいただいたりと、かねがね好意的な反応でした。

「震災の時にボランティアで現地入りしたけれど、あの状態からこの短期間でここまで復興を進めていることに感心したし、うれしく思うよ」といったご意見もありました。

 ほかにも、「もう安全なのか?」「チェルノブイリとの差はどうして生まれたの?」「再生利用に関心がある」「処理水はどうするの?」「地震が多い日本で原発はどのような対策を取っているの?」「廃炉の方法を知りたい」など、技術的な質問もいただきました。

ブースの見学者COP27のパビリオンの様子 提供:環境省

 海外での関心の高さを実感する一方で、情報が十分に届いていないという課題も再認識したので、引き続き、海外への情報発信を続けていく必要があると思いました。

 あとは、やはり直接、福島に来ていただいて、中間貯蔵施設を見ていただきながら、きちんと説明していく、こういったことももっと実施していかなければと思っています。

馬場 土は水と違って、自分たちの国に来るものではないので、好意的な反応が多いですが、水、つまり処理水のほうは、海が各国とつながっている以上、当然、特に近隣の国々や地域からは不安な声もあると思います。

 処理水を担当する東京電力と経済産業省と連携しながら、環境省では、放出する周辺海域で、トリチウムや放射性物質の濃度が上がっていないかモニタリングをする役割があるので、適切に実施し、説明していくことになります。そのあたりはIAEA(国際原子力機関)とも連携しながら、きちんと進めてまいります。

――中間貯蔵施設の見学会は定期的に行っているのでしょうか。聞くところによると、バリケードがあって重々しい雰囲気で、事前予約がないと(当日訪れても)見学ができないとのことでした。安全というからには、もっと開かれた形でも良いのかなと思いました。

志村 基本的には月に2日、1日2回の見学会を実施しています。中間貯蔵工事情報センターというところがありまして、そちらに事前に予約をして、本人確認などの手続きをしていただく必要があります(※見学は15歳以上が対象)。5〜6人以上などある程度の人数であれば、それとは別に見学会を設定することが可能な場合もあるので、ぜひ事前にご相談いただければと思います。

 メディアの方以外にも、企業や大学の方たちが複数人でいらっしゃることもあります。3.11の当日はさすがに早い段階で満席になってしまいますが……。

馬場 中間貯蔵施設だけを見に福島を訪れるというのは、なかなか難しいかもしれませんが、福島には日本酒の蔵がたくさんあって、モンドセレクション(消費生活製品の品質評価を行っているベルギーの機関)の最高賞を受賞している数は、福島は全国で1位なんですよ。

 日本酒は震災前よりも今のほうが売り上げが高いですし、ほかにも、桃やぶどうなどのフルーツ、メヒカリなどの海産物など、季節ごとにおいしいものもたくさんあります。そういった福島のおいしいものを食べに来るついでに、中間貯蔵施設も見ていただけるとありがたいです。

2045年頃に社会を担っている
若い人にこそ、知ってもらいたい

――多くの人に中間貯蔵施設を見てほしいと思うのですが、あえてターゲットを絞るとしたら、特にどういう人に来てもらいたいですか? 若い人とか年配の人とか、今回の事故で地元や福島を出て行ってしまった人とか、再生事業の関係者とか、さまざまなステークホルダーがいると思うのですが。

馬場 特に若い人です。2045年までの県外最終処分の頃に、社会のど真ん中を担っている人は、今の10代後半〜20代だと思うんです。ですので、学生さん含め、若い世代に見ていただいて、日本にはこうした課題があるんだということに、少しでも関心を持っていただきたいです。

 大学の授業でお話をさせていただいたり、学生さん向けの中間貯蔵施設の見学ツアーを開催したりしていますが、全国の学生の数からすると、まだ氷山の一角ですが。若い人へPRするため、毎年、3.11の頃にJヴィレッジで開催されている「SONG OF THE EARTH 311」という、音楽フェスやシンポジウムなどを行うイベントにも参加しています。

――福島第一原発を一般の人が見学するツアーはないのでしょうか。

馬場 福島第一原発は我々の管轄とは別になりますが、今はそうした一般の方向けのツアーは行っていないということは聞いています。

――放射線の空間線量の推移等のデータは原発事故以降、よく目にしましたが、その数字を見て一般の人にどれだけ伝わるか、行動に反映されるか、疑問に思うことがありました。今後は、実際に健康被害が出た人はどのくらいいるのかとか、もっと一般の人が我が事として捉えられるような形で示していくといいのかもしれません。

 そして何より、風評の払拭をどう行っていくかが、今後より重要になっていくのだと思います。一度、人についたイメージを塗り替えることは至難の業です。でも今回、お話をお聞きしたことで、こうしたことに環境省が積極的に、前向きに取り組まれていることを知ることができました。

馬場 ありがとうございます。この10年間でようやく、中間貯蔵施設への除去土壌の搬入がおおむね完了しましたが、このことは、福島県民の方々や自治体のご協力によって、なし得たことです。国が事故を起こしたわけですから、被災地の環境を取り戻すべく全力を注がなければなりません。

 再生利用や県外最終処分など、これからも課題は山積しており、復興への道は、道半ばですが、引き続き皆さんと一緒に、そして、福島県の方々だけでなく、国内外の多くの人のお力をお借りしながら、一歩ずつ、着実に進めていきたいと思います。