2045年までに福島県外で最終処分
最大のボトルネックは?

福島県双葉町 2022年3月11日撮影福島県双葉町にて 2022年3月11日撮影 Photo by KMGs

馬場 現時点ではまったく決まっていません。最終処分場を決めるプロセスも現時点では決まっていません。

――でも、中間貯蔵を開始して30年以内、つまり2045年までには福島県外で最終処分をするということは法律で定められているんですよね。

馬場 その通りです。ですからそれは国の責務として進める必要があります。

――最終処分を進める上で、最大のボトルネックは何だとお考えですか?

馬場 それまでに技術開発をどれだけ進められるかという点です。

 東京ドーム約11杯分の除去土壌を、丸ごと県外で最終処分するということは現実的に難しいでしょう。となれば、その中の低線量の土壌を再生利用しなければなりません。ですので、最終処分量を低減するための「除去土壌の再生利用」というのが重要なポイントとなります。

 一方で線量の高い土壌に関しては、県外最終処分のためには、熱処理(焼却した灰を溶融あるいは焼成し、セシウムを気化して分離すること)や分級処理(土壌を粒度別に分別すること)などさまざま技術によって、セシウムを濃縮、洗浄して減容する必要があります。

 よって、これらのための技術開発を急速に進める必要があるんです。そして「こういう技術があります」と、最終処分の各工程に必要となるそれぞれの技術を絞り込んだ後、これらを組み合わせることにより、セシウムをどの程度、濃縮することができるかを検証します。

 その後、「これらを行うためには、この位の規模で、こうした構造の最終処分場が必要です」という案をまとめます。「最終処分方式の具体化」と呼んでいますが、2024年度までに報告書としてまとめる予定で進めています。

 最終処分方式が具体化すれば、それにのっとって進めていく形となります。全国で説明しながら場所を探すことが一つ考えられますが、おそらくなかなか手を挙げてくれるところはないでしょう。丁寧に説明を続けていくしかありません。どこか手を挙げてくれるといいのですが……。

――埼玉県所沢市の環境調査研修所、東京都の新宿御苑、茨城県つくば市の国立環境研究所で、福島県外初となる、除去土壌の再生利用に関する実証事業を行うとのことで、近隣の住民が不安に思っているという報道がありました。

馬場 あくまで、低線量の土壌を安全に再利用するための実証実験であり、県外最終処分の候補とはまた別のベクトルになります。

 実はまだ「再生利用」の基準がないため、環境省が管轄するこれらの施設内で実証事業(※試験して有効性や経済性を確認すること)を行いたいと思い、まずは地元の方々に対して丁寧に説明をすべく、環境調査研修所、及び、新宿御苑での実証事業について、その初回の説明会を昨年の12月に実施したという段階です。まだこれらの場所で行うと確定したわけではありません。当然、「環境省が管轄する土地なので強制的に行う」といった意識はまったくありません。

 仮にこうしたエリアで実証事業を行うことができれば、「安全にやれているんだね」という、再生利用の理解醸成にもつながると思います。県外最終処分の期限はあと20数年先ですが、それに向かって、少しずつ少しずつ、信頼とエビデンスを積み上げていく必要があると考えています。

――最終処分場の候補と、再生利用のための実証実験の場、この違いでさえ、私たち一般人はごっちゃになって情報を受け取ってしまいます。そう考えると、情報が錯綜する前に、かなりわかりやすく、情報を発信していく必要がありそうです。

 最終処分に関しまして、日本では土が足りないということを聞いたことがあるのですが、それでも、もらい手を見つけるのは困難を極めそうでしょうか。

馬場 残土というのは、意外と全国の公共事業で余っているんです。ですので、残土を使いたい場合は、そうした公共事業で出た残土を使えば事足りてしまう。わざわざ輸送費をかけて、福島の中間貯蔵施設からダンプで何キロも運び出してまでほしいという人は滅多にいないんです。

 事業主でなくても個人の方でも、線量の低い土壌であればほしいという方も中にはいらっしゃいますが、やはり遠方ですと費用がかかってしまいます。このように、線量や技術開発の課題のほかにも、最終処分には莫大な輸送費がかかるという課題もあるんです。

――となると、あまり遠い場所は難しいということでしょうか。数十年後にはだいぶ宇宙開発も進んでいると思いますが、どこかの星に打ち上げるというのは?

馬場 そうですね。費用も莫大になりそうですからね。宇宙は考えていませんでしたが、基本的には地球である限り、海と陸しかないわけです。

――除去土壌を使って、海に埋め立て地をつくるというのは?

馬場 海上埋め立て処分場を造るということでしょうか。例えば、廃棄物の最終処分、つまり焼却後に残った灰の最終処理を行う埋め立て地として、そのような例はあります(※大阪湾フェニックスセンターなど)。

 それは、地域の方たちが生活する上で出てきたものなので、皆で何とかしようと、建設されたものですが、福島の除去土壌となると、「お互いさまだから受けてあげたいね」という人もいれば、「なぜわざわざ福島から持ってきて、海だったところに陸を造らないといけないの?」という人もいると思いますし、ひとつのアイデアとしてはあると思いますが、ハードルは高いだろうという気はします。

 海は世界中でつながっているため、どれだけ説明をしても海外との軋轢(あつれき)の懸念があります。となると、陸になりますが、セシウムを濃縮する技術の開発が進めば、もっと全体をコンパクトにできるはずです。その上で、最終処分場となったエリアの、例えば、かなり深くの地下に埋めるという可能性もあるのだろうと思っています。