東シナ海で起きた中国の軍艦による挑発行為は、一触即発の危機が日中間に存在することを印象づけた。日本も中国も政府は「武力衝突は避けたい」と思っているのに、最前線で命を張る軍は武器を使いたがり、ちょっとした小競り合いが開戦の口火になる。
今回の真相はまだ明らかではないが、中国側に「政府の意思」と「軍の行動」の乖離があったのではないか。共産党と人民解放軍に亀裂が生じている、と思わせる事件である。
日本側には「防衛省の突出」があった。外務省を飛び越え「中国の暴挙」を国際社会に訴えた。微妙な外交問題は、騒げば解決するほど単純ではない。「3手先まで読み、手を打つ」という外交鉄則を踏み外した。
日中双方に共通する「文民統制の欠落」と「政治の弱体化」。これが問題解決を困難にし、危機を煽っているのではないか。
外交部報道官が
明言を避けた意味
事件後、中国での記者会見で、いつもの女性報道官が、とまどいの表情を露わにした。レーダー照射の事実確認を迫られると「報道を見て知った。具体的な状況は分からない」とかわし、問いつめる記者に「関係部署に聞いてほしい」と回答を避けた。
報道官は外交部(日本の外務省に当たる)に属す。張りのある声と堂々たる態度で中国の立場や見解を外人記者に伝えるのが任務だ。その女史が質問に答えられず、レーダー照射は外交部の手が及ばない所で起こった出来事であることをうかがわせた。
中国の統治は共産党が国家=政府と軍を指導・掌握する。つまり人民解放軍は政府の外に、国家と並び立つ組織になっている。政府見解を説明する報道官にとって解放軍の不始末は「所轄外」の出来事なのだ。「関係部署に聞いてほしい」というのは正直な対応で、中国では政府の外交と軍の間に分厚い壁がある。