コロナ禍をきっかけに一気に進んだ「オンライン化」。その利点は多いが、一方で人と人が顔を合わせてコミュニケーションする機会が減っていくことに、物足りなさを感じる人も多いのではないでしょうか。じつはその“実感”には科学的な裏づけがあることが近年わかりつつあるのです。「脳トレ」でも著名な川島隆太先生率いる東北大学加齢医学研究所の榊浩平先生に、オンラインでのコミュニケーションが脳に与える影響について聞きました。(2023年2月13日刊行『スマホはどこまで脳を壊すか』から一部抜粋・再編集)
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オンライン会議で脳にサボり癖がつく!?
そもそも「コミュニケーション」とは何でしょうか。私は自著『スマホはどこまで脳を壊すか』の中で、「人と人とが双方向的な情報のやりとりを通じて心を通わせること」と定義して論じました。
心理学者のロイ・バウマイスター博士とマーク・リアリー博士の論文によると、ヒトは持続可能でポジティブな人間関係を形成し維持することを望む「所属欲求(Need to belong)」を、基本的欲求の一つとして持っているといいます。ヒトにとって集団で生活することは、食料を獲得したり、外敵から身を守ったり、生殖や子育てをしたりする上で有利であり、単独で生活するよりも生存できる可能性が高かったためであると考えられます。
コミュニケーションが私たちにとって必要不可欠であることは、裏を返すとコミュニケーションが不足すると様々な問題が生じてくることになります。
多くの人は、他人とコミュニケーションをする機会が減ると、寂しいという感情を抱くでしょう。心理学の分野では、人間関係が質的または量的に不足しているときに生じるネガティブな感情を「孤独感」といいます。孤独感と心の健康は密接に関わっています。ドイツで行なわれた約1万5千人を対象とした大規模調査の結果、孤独感の高い人は、うつ病や不安障害の傾向が高く、自殺願望が強いことが報告されています。