経営危機に陥ったクレディ・スイスをUBSが買収し、救済することになった。スイスの名門金融グループがこのような憂き目に遭った理由は、金融ビジネスの「毒」に耐えられなかったからだと筆者は考えている。その「毒」の正体と、それがクレディ・スイスをどのようにむしばんでいったのかをお伝えしたい。(経済評論家、楽天証券経済研究所客員研究員 山崎 元)
クレディ・スイスをUBSが救済
苦肉の策の買収劇
スイスの名門金融グループであるクレディ・スイスが経営不安に陥り、同業大手のUBSに買収されることになった。買収額は円貨換算で約4200億円と、世界的な大銀行であり、広いビジネスと顧客層を持つ銀行としては極めて安い。
しかし、金融関係者はむしろ、UBSの方を心配したのではないか。「クレディ・スイスを丸ごと買って、本当に大丈夫なのか?」と。しかも、この買収は、いかにも急ごしらえの苦肉の策に見える。
クレディ・スイスが発行した自己資本に繰り入れることができる特定社債は、円貨で2兆円分が無価値になることとなった。額は小さくても株主に価値が残って、社債が無価値とは金融常識的には奇妙だが、短期間に株主の同意を得るための苦肉の策だったのだろうか。また、スイス国立銀行(スイスの中央銀行)からは既に受けている数兆円の流動性支援の他に、UBSが被るかもしれない潜在的損失に備えた保証が1兆円程度提供されるという。
スイスとしても、UBSを含む金融界としても、何としても先の週末の間に話をまとめる必要があったのだろう。確かに、仮にクレディ・スイスが単純に破綻した場合、その波及効果は米リーマン・ブラザーズの倒産以上であった可能性がある。リーマンは根本的に証券会社なのに対して、クレディ・スイスは世界的な大銀行だ。クレディ・スイスは、間違いなく「トゥービッグ、トゥーフェイル(=大きすぎてつぶせない)」に該当する金融機関だった。
米国では、ジャネット・イエレン財務長官と、ジェローム・パウエル米連邦準備制度理事会(FRB)議長が、UBSとスイス当局の決断を歓迎する旨のメッセージを発したが、当然のことだ。もちろん、他人が決めることなので「絶対に」とは言えないが、この状況下でFRBが次の米連邦公開市場委員会(FOMC)で追加利上げを決めることは考えにくい(注:とはいえ、投資家の皆さんはご自身の責任で判断してください)。
クレディ・スイスは1856年の創業だが、顧客の秘密保持で名高いスイスのプライベート・バンクの老舗であり、欧州型のユニバーサルバンクの代表格の一つでもあって、堅実経営の名門銀行のはずだった。同社は、どうしてこのような末路を迎えたのか。
以下で、筆者の仮説を述べてみたい。クレディ・スイスは、現代の金融ビジネスが抱える毒に耐えられなかったのだと考えられる。