忍び寄る「戦争の足音」に
複雑な住民の思い
筆者は、2024年の台湾総統選挙とアメリカ大統領選挙が終わって以降、中国は台湾統一へと動きだす可能性が高いと分析している。
そうなれば、先島諸島一帯はいやが上にも巻き込まれると考え、ラジオ番組や拙著を通じ、「防衛力の強化は不可避」と訴えてきた。その論拠は以下の3つだ。
(1)中国は、アメリカのペロシ下院議長(当時)が台湾を訪問した2022年8月、与那国島に近い台湾北東部にも「東風」ミサイル5発を撃ち込んでいる。これは台湾侵攻を視野に入れた予行演習。
(2)中国海軍の空母「遼寧」が宮古島周辺海域を航行し、戦闘機や偵察・攻撃型無人機「TB001」が先島諸島上空を飛行するケースが増えている。これも台湾侵攻の下準備。
(3)日米の防衛関係者に取材すれば、異口同音に「中国軍はまず制空権を掌握し台湾海域の封鎖に出る」との答えが返ってくる。つまり、アメリカ軍基地や自衛隊駐屯地がある沖縄は攻撃される可能性が高いということ。
石垣島では、上記のうち、(3)に関して、「駐屯地ができればさらに狙われやすくなる。島を再び戦場にする気か?」という声が根強い。駐屯地設置に抗議した住民の間には、弾薬庫が標的にされることへの不安もある。
石垣島のマンゴー農家・金城龍太郎氏は、反撃能力(敵基地攻撃能力)を持つミサイル配備への懸念を口にする。
「石垣市議会は反撃能力を持つ長距離ミサイルの配備を容認しないとする意見書を可決しています。しかし、政府側の説明では相変わらず釈然としません。私は、そのうち配備されるんだろうと思っています。そうなれば、当然、狙われやすくなると思います」
こうした声がある一方で、「駐屯地がなければすぐに占領されてしまう」との声も少なくない。
八重山日報の仲新城誠論説主幹は、沖縄県の玉城デニー知事が「自衛隊の防衛力強化で、沖縄が攻撃目標になるリスクをさらに高める」と述べている点を踏まえ、筆者の取材に次のように答えた。
「沖縄を取り巻いている国際情勢を思えば、駐屯地設置は遅すぎたくらいです。駐屯地に関しては、選挙の都度、争点になっていて、沖縄防衛局は、その度に説明してきました。今になって説明不足ということはありません」
「玉城知事は『住民合意が不十分』と言っています。石垣市長や与那国町長などとはかなりの温度差がありますね。これでは知事と関係自治体との溝は深まるばかりです。知事には、現実を見据え、有事を想定した避難準備やシェルター整備などの取り組みを急いでほしいですね」
玉城知事への不満は、石垣島から約7キロの海上にある竹富島(竹富町)の前泊正人町長からも聞かれた。
「基地問題でアメリカに交渉をしに行く以前に、しっかりと八重山地域の現状を見ていただきたいと思っています。石垣市、竹富町、与那国町の3首長と意見交換するのが先ではないでしょうか」