みなさんは、「嘔吐恐怖症」を知っていますか? この症状は「乗り物に乗れない」「人と食事ができない」など、日常の行動を大きく制限することがあります。『「吐くのがこわい」がなくなる本』著者の山口健太さん(日本会食恐怖症克服支援協会代表)は、そうした症状に悩む方のために活動をしています。本記事では、嘔吐恐怖症の当事者で、山口さんの活動によって前向きな人生を送ることができるようになった経験をもち、自身もカウンセラーとなったさやかさんに話を伺いました。

【テレビで話題】小学生で発症? 吐くのがこわい病気ときっかけ、救われた言葉Photo: Adobe Stock

「給食のにおいが苦手」「だれも助けてくれないと不安に」
知られざる、さまざまな症状

山口健太(以下、山口):さやかさんは現在、私が運営する日本会食恐怖症克服支援協会のお手伝いをしてくださっていますね。最初は、ご自身の症状に悩まれて協会にきてくださったのですが、嘔吐恐怖症の症状が出始めたきっかけをお伺いしてもいいですか。

さやか:小学生のころから給食のにおいが苦手で、給食の時間になったら気持ち悪くならないかとか、給食を食べたあと、授業中に吐いてしまうのではないかと考えながら過ごしていました。

 きっかけは同級生が学校で嘔吐したことです。それを見た周りの子が「汚い」といじめるようになって、私も人前で吐いてはいけないと思うようになりました。そのころは、なんでこんなに吐くことに対して不安なんだろうと疑問を持ちながらも、さほど大きな支障はなく学校生活を送っていました。

 生活に支障が出始めたのは2016年です。趣味でライブ活動をしていて、突然、ステージで歌えなくなってしまったんです。ステージでギターを弾いて歌っているときに、お客さんの前で吐いたらどうしようと急によぎるようになって、ライブに出られなくなり、活動を終えてしまいました。

山口:症状が出たとき、病院には行きましたか?

さやか:はい。私の場合は、病院でうつ病、パニック症、広場恐怖症という診断をもらいました。そのとき、人がいるところで体調が悪くなってもだれも助けてくれないんじゃないかとか、このまま死んでしまうのではないかという漠然とした恐怖があって、動悸がしたり、手が震えたり、過呼吸になったり、吐き気がする症状がありました。でも、このときは私もまだ嘔吐恐怖症や会食恐怖症を知らなくて、診断もつかなかったんです。

 病院の先生には、吐くのがこわかったり、外食に行けなかったり、乗り物に乗るのもこわいと相談したのですが、薬で良くなりますよとか、こわくても慣れれば行けるようになるし、乗れるようになるので、避けないように頑張りましょうと言われて、多分、このときは嘔吐吐恐怖症もあまりメジャーではなかったのかなと。

 それで、うつ病とパニック症に対しての薬物療法を受けたんですが、薬のおかげでパニック発作は起こりにくくなりましたし、外出や嘔吐に対する不安な気持ちも軽減されて徐々に外出できるようになったので、治療の効果はすごくあったと思います。

 ただ、徐々に薬を減らしていく時期、2019年に断薬をしたんですが、薬をやめた2週間後にまた嘔吐恐怖症をぶり返しました。自分の中では完治したと思っていましたが、薬のおかげで不安が気にならないレベルになっていただけだったと気づきました。薬物療法はすごくいい方法だと思うんですが、このときに、嘔吐恐怖症は根本的に自分の間違った認知を正していくのがすごく重要な病気なんだと感じました。

山口:私のところに相談にきてくださる方のなかにも、さやかさんのように吐くのがこわいことと、パニック症や広場恐怖症を同時に抱えて悩んでいる方が多くいらっしゃいます。

発症時期は小学生が1番多い?

山口:先ほど、さやかさんは「小学生のころに吐くのがこわいと感じた」とおっしゃっていましたが、当事者の方にアンケートをしたときにも、小学生で発症したと答えた割合がもっとも高い結果になりました。

【テレビで話題】小学生で発症? 吐くのがこわい病気ときっかけ、救われた言葉『「吐くのがこわい」がなくなる本』より

さやか:私もカウンセリングをするなかで、嘔吐恐怖症に関しては小学生からが多いと感じています。

はじめて自分の悩みに名前がついた

山口:ご自身の症状に悩まれるなかで、私が運営する日本会食恐怖症克服支援協会を知ったきっかけは何だったのですか。

さやか:私が山口さんの協会のことを知ったのは、外食に行けない日がずっと続いて、このままじゃ駄目だと思ったときに、ネットで検索したのがきっかけでした。なぜこんなに外食や外出がこわいのか理由がわからない状態でしたが、そこではじめて私は嘔吐恐怖症なんだと知りました。

 私はそれを知ってすごく納得して、病院でもわからなかった自分の症状や不安に名前がついたことがすごく嬉しかったです。そして、改善の方法があることも知れたので、精神的にとても落ち着きました。うつ病、パニック症、広場恐怖症の診断はついていましたが、吐くのがこわくて電車に乗れないとか、外食に行けないことには診断名がなかったので。

山口:そういう声はよくいただきますね。

家族にも友達にも相談できず

山口:さやかさんは症状を身近な方に相談しましたか。

さやか:私はだれにも相談できなくて。

山口:家族にも?

さやか:はい。家族にも友達にも言えなかった理由は、パニック発作で取り乱したりするのは恥ずかしい、吐くのがこわい気持ちがだれにも理解してもらえないんじゃないかと思ったからです。なので、山口さんに出会えて本当によかったなと思います。

山口:ありがとうございます。

身近な人の言葉ひとつで救われることがある

さやか:山口さんも以前、人との食事がこわい会食恐怖症だったそうですが、どなたかに相談されましたか。

山口:私もやっぱり親にも相談できなかったですし、友達に会食恐怖があるかもと言っても理解されずに、孤独感がありました。

 でも、大学生のときにまかないが出る飲食店でアルバイトをして、それが食べれないという理由で辞めたくなかったので、お店の人に相談したら、「無理して食べなくて大丈夫」と言ってくださったんです。そこで半年ぐらいまかないを食べていたら、だんだん良くなっていきました。

 会食の機会のおかげで、苦手な場面に少しずつチャレンジ、しかも無理して食べなくてもいいと言ってくださっているなかで、だんだん食べられることが増えていきましたね。

さやか:「無理して食べなくても大丈夫」の言葉一つだけでも救われますよね。

山口:そうですね。それが一番安心になるので、すごく大きいですね。

【著者】山口健太(やまぐち・けんた)【テレビで話題】小学生で発症? 吐くのがこわい病気ときっかけ、救われた言葉

一般社団法人日本会食恐怖症克服支援協会代表理事、カウンセラー、講師
2017年5月に同協会を設立(アドバイザー:田島治杏林大学名誉教授、はるの・こころみクリニック院長)
自身が社会不安障害の一つの「会食恐怖症」に悩んだ経験を持ち、薬を使わず自力で克服する。その経験から16年12月より会食恐怖症の方への支援活動、カウンセリングをはじめる。その中で関連症状の「嘔吐恐怖症」の克服メソッドを研究。これまで1000人以上の相談に乗り改善に導いてきた。主催コミュニティ「おうと恐怖症克服ラボ」では、会員向けに克服のための情報を発信している。著書に『会食恐怖症を卒業するために私たちがやってきたこと』(内外出版社)、『食べない子が変わる魔法の言葉』(辰巳出版)などがある。

一般社団法人日本会食恐怖症克服支援協会 ホームページ
https://kaishoku.or.jp/

さやか

会食恐怖症克服支援プロカウンセラー
嘔吐恐怖症・会食恐怖症・パニック症の当事者経験を持つ。
克服に向けて取り組んでいく中で自分自身と向き合っていくと「こんなことで不安になる自分は情けない」「食べられないことはダメだ」など、自分を否定的に見てしまうクセを持っていることに気づく。

そのような自身の経験を生かし、薬を使わない認知行動療法を中心に、自己肯定感を高める方法をお伝えしながら、一人一人に寄り添うスタイルで克服支援・カウンセリング活動・当事者コミュニティの運営を行う。相談件数は年間1500件超え。不安や恐怖をコントロールしながら、リラックスして会食・外出できるようになる支援のほか、自分を好きになることで「自分らしく楽しく生きられるようになる方法」を伝えている。

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