まず、以下の三つのステップで金融危機について整理していきたいと思います。

(1)アメリカの銀行破綻のメカニズムとその沈静化対応策
(2)クレディ・スイスの信用不安と対応策
(3)日本ではどこに危機の火種が存在しているのか?

 それでは、アメリカで起こった二つの銀行破綻の状況から振り返っていきましょう。

(1)アメリカの銀行破綻のメカニズムと
その沈静化対応策

 アメリカで経営破綻したシリコンバレーバンクとシグネチャーバンクはそれぞれ特殊な銀行であるとともに、特殊な事象が起きたことで破綻に追い込まれました。

 シリコンバレーバンクは、カリフォルニア州シリコンバレーのベンチャー企業に対するブリッジファイナンスを得意とする銀行で、その取引先の大半は地元のベンチャー企業でした。ひとことでまとめると、ベンチャー企業が投資家から受け取った事業資金をこの銀行に預け、一時的に資金が必要になった別のベンチャー企業に短期間の融資をするというビジネスモデルの銀行でした。

 ところが、コロナ禍でベンチャー企業が全体的には投資を控えたため預金が余ってしまいました。そこで融資に回らない資金の運用先としてアメリカ国債への投資比率が増えていきました。そこに昨年、アメリカで強烈なインフレが起きたことで、連邦準備制度理事会(FRB)が利上げに踏み切ったことが打撃になります。

 金利が上がると債券の価格は下がります。シリコンバレーバンクが保有する国債は、大きな含み損を抱えることになったのです。

 問題は、そのことがSNSを通じてベンチャー経営者に広がったことです。ベンチャー企業からすれば銀行が破綻してしまうと事業資金がなくなってしまいます。そこでシリコンバレーバンクに預金を預けていたベンチャー企業が一斉に預金を引き出し始めて、結果としてシリコンバレーバンクはあっという間に資金が枯渇してしまったのです。

 ここで、バイデン大統領が迅速に次のような対応策を表明したことで、シリコンバレーバンクの破綻から金融危機が広がる最悪の状況は回避されます。その対応策とは「株主と経営者は救済しないが、預金者の財産は全額保護する」というものです。

 これは非常に良い対策で、二つの点から評価できます。

 一つは金融危機の引き金が預金の引き出しだったことから、預金を保護することでそれが止まるということ。そしてもう一つ、私はこちらの方が重要だと考えているのですが、アメリカ経済の発展を支えてきたベンチャー企業たちが連鎖倒産する危機にあったところを、その預金を保護したことでその危機を防ぐことができたことです。

 二つ目に起きたニューヨークのシグネチャーバンクも、破綻と救済の構造は同じです。

 シグネチャーバンクは、取引先に暗号資産関連の企業が多かったことで知られています。同様の不安から経営破綻に追い込まれましたが、暗号資産業界も救済策によって連鎖破綻をまぬかれることができました。

 この危機について日本が気にかけておくべきことがあるとしたら、一部の地銀や信用金庫がシリコンバレーバンクと似た状況にあるという点です。

 銀行が国債などの債券を保有する比率を預証率といって、国内106行の全体では直近で25%程度の水準にあります。ただ、地元に有力な貸出先がないことから、預金をもっと大きな比率で国債で運用せざるを得ない状況に陥っている地銀も存在しています。そこにアメリカのような金利上昇が起きたとしたら、一部の銀行の信用不安が表面化するかもしれません。

 ただ、日銀の黒田東彦総裁が異次元緩和を続けています。植田和男次期総裁も金融緩和を継続する方針であることから、短期的に同じような危機が来ることは考えにくい。今はそのような状況です。