「パーパス作り」と「ゲーム開発」の意外な共通点

――まず世界を構築して、そこから物語を立ち上げていく、という方法論は、企業が長期的なビジョンやパーパスを構築する上でもヒントになるのではないでしょうか。

『大歳ノ島』では、集落を三つ設定したのがポイントでした。立場が二つだけだと「対話」になってしまうのですが、三つの異なる立場を設定すると、そこに社会が生まれるので物語が立ち上がりやすい。ビジョンやパーパス作りでも、多様なステークホルダーを巻き込んだ世界観をいかに構築するかが重要なので、ゲーム開発との共通点は多いように思います。だからというわけではないのですが、私は、ゲームエンジンが今後どんどんビジネス領域に普及していくのではないかと考えています。

AI時代の社会とビジネスを変革する、ゲームという総合表現Mamoru Kano
ビジュアルデザインスタジオWOWの創設メンバーとして、コマーシャル映像からソフトウエア開発まで様々な分野のデザインを手がける。これまで国内外の展示会や美術館にて体験型の映像作品を多数発表。企業や自治体とのデザインプロジェクトも数多く携わる。 近年では東北芸術工科大学にてデザイン教育の研究に力を注ぎ、メディア表現を軸とした次世代の才能発掘や地域貢献につながる連携事業を積極的に展開している。 Photo by ASAMI MAKURA

――普通のビジネスパーソンが、ビジネスでゲームを構築するようになるということでしょうか。

 そうですね。あらゆる表現手法を含むコンテンツを作れるツールとして、今のパワーポイントみたいな存在になって「ゲームエンジンで事業計画を作ろう」というケースも出てくるんじゃないでしょうか。実際に、ゲームエンジンをビジネスに活用する動きは、既にさまざまな業界で始まっていますし、私もゲームエンジンを活用したプロトタイピングなどを企業でレクチャーする機会が増えています。

 ゲームエンジンがどんどん使いやすくなっていることに加えて、クオリティーの高い3DCG素材も入手しやすくなっていて、技術的なハードルも下がっています。ゲームの素人である私が数カ月でゲームを開発できたのもそのおかげといえます。さらに、AIとゲームエンジンの融合が進めば、より複雑なビジュアルも自動生成できるようになるでしょう。生態系が複雑に絡み合った「都市」や「森」のような環境も容易に構築できるようになると思います。

――ゲーム内に仮想のマーケットが簡単に構築できれば、ユーザー観察やマーケティングリサーチもゲームの中でできるようになりますね。

「AIペルソナ」をマーケティングに活用しようという試みは既に行われていますし、ゲーム制作の現場でも、AIがキャラクターのせりふや行動を自動生成するようになっていますから、できるようになる日は近いでしょう。ただし、今はまだAIの生成物をそのままビジネスに使うのは難しい。AIの精度そのものはかなり向上しているのですが、それを既存のビジネスプロジェクトや計画にスムーズにつなぎ込む使いやすいプラットフォームがないからです。そして私は、ゲームエンジンこそが「次世代のAI統合プラットフォーム」に進化していくのではないかと思っているのです。(後編に続く)

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