ビジョンを描く力で、プロジェクトを前進させる
――鹿野さんは、ビジネスパーソン向けのワークショップでも、印象的に情報をデザインする方法を伝授されていますね。
2014年に「デザインのつまみ」としてスタートして以来、そろそろ10年になります。16年以降は「EMOTIONAL VISION〜人を導くデザイン」とタイトルが変わりましたが、「アイデアを美しく表現し、正しく伝える」という基本姿勢は変わっていません。
ビジュアルデザインスタジオWOWの創設メンバーとして、コマーシャル映像からソフトウエア開発まで様々な分野のデザインを手がける。これまで国内外の展示会や美術館にて体験型の映像作品を多数発表。企業や自治体とのデザインプロジェクトも数多く携わる。 近年では東北芸術工科大学にてデザイン教育の研究に力を注ぎ、メディア表現を軸とした次世代の才能発掘や地域貢献につながる連携事業を積極的に展開している。 Photo by ASAMI MAKURA
――「デザインのつまみ」とはどういう意味でしょうか。
非デザイナー向けの講座なので、特殊なスキルやセンスに頼らず、客観的にデザインを評価する方法を伝えたいと考えたのが原点です。そのためには、長さ、太さ、明るさ、時間……など、デザインの構成要素を分解して数値化し、調整可能なパラメーターとして捉えよう、あらゆるデザインに「パラメーターの調整つまみ」を付けよう、という意味です(笑)。ワークショップでは、実際にさまざまなパラメーターをいじって、表現がどう変化するかを体感してもらっています。
――デザインの知識やセンスに自信がない人には、とてもありがたい内容です。
人の心を揺さぶるためには、非言語情報を魅力的に視覚化することが大事です。デジタルツールを文房具のように使いこなすことができれば、デザイナーでなくてもそれは可能です。デザインをパラメトリックに捉えることは、その第一歩になると思います。ワークショップでも、旬のデジタルツールを積極的に取り入れたり、プログラミングに挑戦してもらったりしています。
参加者の中には、最終日までにアプリ開発までしてしまうつわものもいるのですが、主眼は技術習得ではなく、あくまで「デジタルツールで何が表現できるか」を理解してもらうことです。こうした理解は、エンジニアやデザイナーとのコミュニケーションにも役立つと思います。
――参加者はどのような課題意識を持っていますか。
社内のプロジェクトをいかに推進させるか、ということを課題にしている人が多いですね。人や組織を動かすには、ワクワクする未来を美しいビジョンとして提示しなくてはいけません。いつもの企画書にインパクトのあるビジュアルを加えるだけで、稟議が通りやすくなったり、ファンが増えたりする。そんな実践につながるエクササイズに力を入れています。