体感重視のエクササイズで、表現の筋力を鍛える

――具体的にはどんなエクササイズをするのでしょうか。

 視覚的な情報を言葉だけで伝えたり、逆に、言語的な情報を視覚だけで伝えたり……。例えば、キャラクターや人物像を言葉だけで表現してもらったり、「重さ」や「価格」のような数値情報、「平日のスケジュール」などを絵や図だけで表現してもらったりします。それを他の参加者に読み解いてもらうと、びっくりするほど表現者の意図は伝わっていません(笑)。その後、本人が答え合わせのプレゼンを行い、「そういう意味だったの!」とみんなで驚くまでがセットです。

――実践と体感を重視した設計になっているのですね。

 デザイン思考的なプロセスや理論も大事にしていますが、それだけだと理論のループに入り込んでしまいがちです。一瞬で人を引き付けるビジュアルのパワーをしっかり体感するのはやはり大事です。「そういうことか!」という納得、「そんなこと考えたこともなかった」という驚きをたくさん引き出したいと思っています。私自身、これまでさまざまなツールを活用しながら、実践を通じて表現を模索してきたので、その成果を全て投入しています。

「導くデザイン」で、感性を揺さぶる美しいビジョンを描く鹿野氏が開発したプレゼンツール「Breakfast」。前後のページが断絶する紙芝居型のプレゼンから脱却し、縦スクロールによる区切りのないプレゼンを実現している (c)WOW

――最新のワークショップには、鹿野さんのゲーム開発の経験や成果も生かされるのでしょうか。

 AIとゲームエンジンは大きなテーマですね。これからは、アイデアの着想から具現化まで、ビジネスプロセスのありとあらゆる部分にAIが影響を及ぼすようになるでしょう。そして、AIを使いこなす上でゲームエンジンが大きな役割を果たすはずです。

 すると、人間には、AIが作ったものをジャッジする審美眼が強く求められるようになる。私はAIの専門家ではないので技術は語れませんが、表現の進化を見続けてきた人間として、この流れをどう活用していくか、ワークショップを通じて掘り下げたいと思っています。

「AIを導くデザイン」という観点も重要です。AIの存在感が増すと、AIと人間のインターフェースに「新たなデザインのつまみ」が必要になると思うのです。人間が理解しやすい表現だけでなく、よりパラメトリックな、AIに理解可能なコミュニケーションが求められるようになるでしょう。

「導くデザイン」で、感性を揺さぶる美しいビジョンを描くPhoto by ASAMI MAKURA

――表現を学ぶだけでなく、ビジネスの未来を考える上でも興味深いお話です。

 AIが発達してクオリティーの高いコンテンツが氾濫するようになると、人間は自分にとって特別に価値のあるものにしか時間を費やさなくなるでしょう。すると、テクノロジーの目的は、効率化や経済性ではなく、より本質的な幸福追求になっていくのではないでしょうか。こうした未来像についても、多様なバックグラウンドを持つビジネスパーソンの方々と一緒に考えていきたいと思っています。

【お知らせ】6/2(金)、6/9(金)、6/16(金)の3日間にわたり、鹿野護さんのワークショップ「EMOTIONAL VISION」が開催されます!(詳細は こちら から)