先行きが見えない時代だからこそ、長期的な目線でビジョンやパーパスを描き出し、未来を魅力的に発信することが、ビジネスのさまざまな場面で求められるようになっている。ビジュアルデザインスタジオWOW(ワウ)のアートディレクターとして、CMやインスタレーションから、UIデザインやソフトウエア開発まで、領域を横断しながらデザインワークの新たな地平を開拓し続けてきた鹿野護氏と共に、社会をより良く導く情報デザインの方法を考える。(聞き手/音なぎ省一郎、坂田征彦、構成/フリーライター 小林直美)
ゲームエンジンがパワーポイント化する?
――前編では、ゲームというメディアのビジネス活用の可能性を伺いました。ゲームエンジンがAIを統合するプラットフォームとして進化すれば、ビジネスの現場はどのように変化するでしょうか。
ゲームエンジンが、現在のパワーポイントのように、ビジネスの必須ツールになる、とイメージすれば分かりやすいと思います。今パワポで作っている企画書や計画書がゲームになり、フィールドワークやリサーチのアウトプットもゲームとしてアーカイブされる。結果は全てゲーム内で確認することができるし、誰でもゲームをプレーすれば、プランニングやリサーチを追体験できる……。そんなふうになれば、すごく面白いですよね。
――テキストや数字だけで構成されているのが当たり前だったドキュメントがゲームになれば、体験価値が一気に上がりますね。
体験価値という意味でいうと、ゲームという形式にするだけじゃなく、中身をちゃんとエンターテインメント化することが大事です。その中で楽しく遊べるようなものができれば、そのまま社外にも発信できて最強ですが、実はそこが一番難しい。
今、「体験のデザイン」はとても重要視されていますが、「それ、面白いの?」という視点が意外に抜け落ちていると思うんです。どんなにリアルな体験ができたところで、面白くなければ誰もやりません。「面白さをいかにつくるか」が、これからますます重要になると思います。
――ただ体験できるだけではなく、面白さという魅力が必要だと。
「面白さ」が大事なのは映像作品でも同じです。限られた時間の中で、どこまで体験価値を高め、なおかつ情報を正しく伝達できるかを、私も常に考えてきました。わずか1分の動画でさえ、面白くないものは誰も見たがりません。一方、たった15秒のCMが2時間の映画より強く人の心を揺さぶることもある。どんな表現でも感情曲線を心地よくデザインすることは重要です。