「見た目は変で、しゃべりも下手、お笑い芸人としての才能もない」と思いこみ、コンプレックスのかたまりだったスリムクラブ・内間政成さんは、そんな自分を人に知られないように、自分の本心を隠し、見栄を張って、いつわりの人生を送ってきました。しかし、それはどうしようもなく苦しかった。自分で自分を否定しているようなものですから。
ある出来事をきっかけに、内間さんは自分自身と向き合い、自分という存在を少しずつ受け入れられるようになっていきます。その結果、何が起きたのか。今まで自分の欠点だと思い込んでいたことが、そうじゃないことがわかってきました。自分の欠点を「欠点だ」と決めつけているのは、他の誰でもない、自分自身だったのです。
「僕はカッコ悪い」「僕は人をイラつかせる」「僕は恐れ過ぎている」「僕はすぐ調子に乗る」「僕は怠け者」と、自分の欠点をさらけ出せるようになった内間さんはいま、ストレスフリーの時間を楽しそうに生きています。そんな内容の詰まった本が、内間政成さんの書籍『等身大の僕で生きるしかないので』です。無理やり自分を大きく見せるのではなく、等身大の自分を受け入れれば、人生は好転する。そのためのヒントを本書からご紹介します。(撮影・榊智朗)
親としては失格だと思いますが、娘を教育したことがありません
僕は娘を教育したことがありません。親として失格だと思いますが、それでもやる気がないですし、これからもするつもりもありません。理由は、教育の影響力は絶大で責任を取れないと思っているからです。
それと、人間は性善説だと思っています。生まれてきただけで完璧で、元々優しい生命体です。だからそんな人間に、とやかく加える必要はないと思っています。そうなると本能が目覚め、本来の自分の感覚で健やかに生きられるのではないでしょうか? でもそうは言っても、生活していく上での最低限のことは、教えなければならないとも思っています。例えば……出てきませんね。僕はそれくらいのレベルです。でも一応は、日本に住むなら日本の税金の義務くらいは教えたいと思っています。
抑圧の連続だった、幼少時代
僕の幼少時代の教育は抑圧の連続でした。お袋にあらゆる楽しみを禁止されました。例えば、野球、将棋、テレビなどです。理解不能ですよね。それぞれ解説していきますと、「野球は不良がやるもの」「将棋はおじさんがやるもの」「テレビは目に悪い」の理由で禁止になったのです。おかしな話だと思いますが、お袋は僕のことを本気で想った上での行動だとは思います。でもその気持ちを理解しても納得はできませんでした。
またお袋は極度の心配性です。起床して開口一番、「健康のために無農薬野菜を食べなさい!」「交通事故には気を付けなさい!」「電磁波は恐ろしいから近づかないで!」と、対不安に関する行動を語ります。毎日ですから、正直気が滅入ります。一度、お袋から電話あり「今、デパ地下に居るよ」と伝えたら、「地下!? 大丈夫? 危なくない?」と言われたこともあります。とにかくお袋は世の中を危険だと思っており、それを避けるための生き方なのです。
もしかしたらお袋は、戦争体験者なので、それが原因なのかもしれません。でも僕の人生は、僕の人生です。ですが、お袋は、僕の人生をお袋自身の人生かのような意気込みで接してくるのです。こんなふうに抑圧教育が続くと本音で話せなくなります。何度か、お袋に反発もしましたが、毎回お袋には響かないのです。
そして、向こうは向こうのペースでやってくるので、ある時期からその行為を諦めるようになりました。そして、「お袋の前だけ」では、「本音を隠して話そう」と思うようになったのです。でもそれが間違いでした。「お袋の前だけ」と言いましたが、お袋とは長時間接します。だから自然とこのような話し方の癖が付き、いつしか「お袋以外の人」にも同じ話し方をしてしまうようになってしまうのです。
自分でも習慣というのは凄いなと感じました。そして、そんな自分が怖くなり、一時期、人と会う前には、「俺がおはようって言ったら、相手も言って来て、その後、最近の仕事の話をして、間にラーメンの話を入れて」などとシミュレーションをし、更に声に出して練習をしてから、会いに行っていました。ただ、一度も練習通りにいったことはありません。
娘はおそらくノンストレス
だから教育とは、一歩間違えたら恐ろしいものになるのです。幼少時代に培った教育の「おかげ」から「せい」にまでもなります。僕は今、娘の教育にノータッチで自由にさせています。でもそれは、皮肉にもお袋から受けた教育の「おかげ」で気づくことができました。そこは感謝してます。
今娘は、自由に感情表現をします。恐らく娘はノンストレスではないでしょうか。10歳の娘は、僕に対しての名称を「パパ」「パパちん」「お前」にまで成長を遂げていっています。頼もしいです。
「パパの悪いところってある?」と聞いてみた
そんな娘に先日、「パパの悪いところってある?」と聞いてみました。すると丁寧に紙に書いてくれたのです。それは、「変な声を出す」「きがつかえない」「家族のことをもうすこし考えろ!」「よっぱらうと変人」「少しきもい」でした。どうですか? 痺(しび)れますよね。僕は、娘の素直な感情表現を絶賛しながらも、落ち込みました。でも、このような感情表現が、人間らしい生き方ではないでしょうか? そして、こういった体験を踏まえていくと、娘に対して、娘というよりも一人の人間だと思える気持ちが強くなってきました。
だから僕はたまに、一人の人間としてネタの相談もするようになりました。すると向こうは素直に、結構きついダメ出しをしてくれます。最近されたのは、「ツッコミ頼りのボケはやめて」です。はい、改善致します。とにかく僕が言いたいのは、親だろうが子どもだろうが、同じ人間だということです。こういう気持ちが少しでもあるだけで、お互い尊重し合えると思います。
ちなみに、娘から貰った僕の悪いところは、僕のツイッターの「固定されたツイート」にアップしております。是非検索して、ご覧ください。
芸人。スリムクラブ ツッコミ担当 1976年、沖縄県生まれ。2浪を経て、琉球大学文学部卒業。5~6回のコンビ解消を経て、2005年2月、真栄田賢(まえだ・けん)とスリムクラブ結成。「M-1グランプリ」は、2009年に初めて準決勝進出。2010年には決勝に進出し準優勝。これをきっかけに、人気と知名度が上昇。「THE MANZAI」でも決勝進出。2021年1月、「2020-2021ジャパンラグビートップリーグアンバサダー」に就任。