コオロギ食否定派の各意見
否定派がさも正しいかのように見えるが穴もある
コオロギ給食の批判の切り口は他にもいくつかあるが、「わざわざ子どもに食べさせる必要があるのか」「なぜ最近急にコオロギ推しが始まったのか。裏がありそう」「食糧問題については他にやるべきことがたくさんあるのになぜコオロギか」「安全面に問題はないのか」などが主だったところであろう。
どれも正当性を感じさせる批判であり、筆者はその全てに触れて納得した。しかしその批判に対する反論はあまり大きく取り上げられない。マスコミを見ていると、批判に対する反論が取り上げられないので、“批判”側が論破して終わり、“批判”側のワンサイドゲーム、圧勝であるようにみえる。
しかし、それぞれの批判は、ワンサイドゲームで終わらせられるほど穴のない主張をしている…というわけでもない。
たとえば、たしかに「わざわざ子ども(高校生)を選んでなじみのない食材を食べさせることはないのではないか」という主張の正当性はうなずけるのだが、「高校生くらいの柔軟な感性にこそ、コオロギ食が与える学びは大きいのではないか」という反論は容易に想定できる。しかし、これがクローズアップされて伝わってくることはない。
「急なコオロギ推しには裏がありそう」もそうである。「新たな市場を作って関係者が既得権益でウハウハしたいだけなんだろう」という声があるが、ビジネスとは本来そういうものである。
また「政府からコオロギ事業者にお金が流れている」といった類いのうわさもあり、こういったうわさを気にしてか、コオロギ事業を手掛けるODD FUTUREはニュースレターの中で「(農水省は)コオロギの養殖に特化した助成金制度はないとしています」と説明。2022年にコオロギ試食を行ったことが記事になって伝えられている河野太郎デジタル大臣も、「コオロギ食を特に推進しているわけではない」と発言している。
「フードロスや食料自給率の問題を先に取り組むべきだ。コオロギをやる意味がわからない」との主張も、今コオロギがクローズアップして伝えられているから、あたかも「コオロギに超注力中」といった印象が生まれて、「コオロギ事業に予算6兆円」というデマが流布しているほどだ。実際はそんなことはなく、コオロギ事業はあくまで「数多あるSDGs的な事業の中のひとつ」である。進められている食糧問題関連事業は何もコオロギ食だけではない。
コオロギ給食・コオロギ推しに対する批判はどれも着眼点がいいので説得力があるが、上述した通り、それに対する正当な反論もまた、想定“は”できるはずなのである。しかし想定できるほどには上がってこず、世論に食い込んでこない。