たとえば、『あまちゃん』は、そのわかりやすい例だ。天野アキが上京して飛び込むのはローカルアイドルの世界。そこには、高校時代に『夕やけニャンニャン』(フジテレビ系、1985年放送開始)から生まれたおニャン子クラブの大ブームがあり、実際自分もファンクラブの会員だったという宮藤官九郎自身の体験が投影されているはずだ。また同作には、小泉今日子や薬師丸ひろ子など宮藤少年にとって憧れの的だったかつての現役アイドルたちも、重要な役どころで出演していた。
クドカン脚本の小ネタの面白さは、そうしたテレビの共通体験から来る「あるある」感が支えているところが大きい。宮藤官九郎脚本の大きな魅力でもある、マニアックでありながら大衆的という二面性の秘密は、そんなところにあると思える。
放送作家出身脚本家が起こした
テレビドラマの変革
そしてもちろん、笑いというものに対する熱量の高さも、元をたどればテレビから得たものが大きいはずだ。しかもそれは、宮藤官九郎だけの話ではない。
三谷幸喜や君塚良一、三木聡ら放送作家出身の脚本家たちにとって、それぞれの趣味嗜好の違いはあれども、笑いは不可欠なものになっている。ほかにも、脚本家というよりはいまや演出家・映画監督のイメージが強いが、『勇者ヨシヒコ』シリーズ(テレビ東京系、2011年放送開始)や『今日から俺は!!』(日本テレビ系、2018年放送)などコメディに定評のある福田雄一も、放送作家として『笑っていいとも!』や『SMAP×SMAP』に携わっていた。福田は1968年生まれで、宮藤官九郎とほぼ同年代である。
いずれにしても、1990年代以降頭角を現した放送作家出身の脚本家たちの仕事を追っていくと、1960年代後半から1980年代にかけてのバラエティ番組、そこでつくられた笑いの影響力の大きさが伝わってくる。三谷幸喜、君塚良一、三木聡、そして宮藤官九郎と、例外なくそうである。
逆に言えば、こうした人たちがドラマの世界に入ってきたことは、テレビドラマに大きな変革をもたらした。
1970年代の山田太一、倉本聰、向田邦子らの脚本にも当然笑いの部分がなかったわけではない。だが萩本欽一や漫才ブームを見て、さらにバラエティ番組づくりの現場を体験してきた放送作家出身の脚本家たちにとって、笑いは物語のコアにあって然るべきものだった。そのなかで、彼らは新しいドラマのスタイルを生み出すことになったのである。小ネタは確かに小ネタではあったが、それはドラマ全体の空気感を決定づける不可欠なピースだった。1990年代以降のテレビにおけるドラマの時代は、そうして形づくられていったのである。