「親知らず」は
治療を怠ると顎にも悪影響

 グラグラな乳歯を抜くのも、骨に埋まっている親知らずを抜くのも、両方とも「抜歯」と言います。前者はほとんど身体的ダメージがありませんが、後者は骨の中から摘出する外科手術になります。摘出するものが親知らずだというだけで、立派な手術ですからダメージも少なくありません。甘く見ると抜歯後に「腫れた」「痛い」などのしっぺ返しをくらうかもしれませんから、慎重に対応してください。

 抜歯については上より下の親知らずの方が難易度は高く、ダメージも大きいので、下の親知らずについて解説します。下の親知らずの抜歯難易度で用いられるのが「Winter分類」で、手前に傾いている親知らずを抜歯するスペースから判断する「Class」と、骨に埋まっている深さから判断する「Position」を掛け合わせて難易度を測ります。

 どちらも3段階に分かれ、ClassIが最もスペースは広く、ClassIIIが一番スペースの狭いタイプ。Position Aは手前の生えている歯の高さと同じレベルまで親知らずが生えているケースで、Position Cは手前の歯の頭の部分(歯冠)より深く骨に埋まっている場合になります。ですから「ClassI―Position A」が最も安易な難易度で、反対に「ClassIII―Position C」は最難関な抜歯になります。

 多いケースは「ClassI―Position A」「ClassII―Position A」なので比較的難易度の低い状態です。また「ClassII―Position B」も難易度はそこまで高くありません。

 親知らずの抜歯手順は以下の通りです。

・事前に抜歯部位の消毒と部分麻酔を行っておきます。

(1)歯肉切開・剥離(はくり):メスで親知らずの上方の歯茎を2cmほど切り、手術する範囲の歯茎と粘膜をめくり骨と親知らずを見やすくします。

(2)骨削除:抜歯の邪魔になる親知らず周囲の骨を削ります。歯の頭(歯冠)部分の骨を中心に削除します。

(3)歯牙分割:親知らずを丸く大きい歯の頭(歯冠部)と細く長い歯の根(歯根部)の間で真っ二つに分断します。歯冠部を取り出しやすくするために削る段階で術者に迷いが出ると、歯冠の削り残しが出ます。歯冠の削り残しは抜歯操作を難しくさせるので、手術時間が長くなる原因です。

(4)歯牙抜去:歯冠を取り出し、次いで残っている歯根を掘り出します。

(5)清掃:歯が抜けて骨に穴が空いた状態の所に残っている炎症組織や骨・歯の削りかすを除去しきれいな状態にします。

 (6)閉創:手術用縫合糸を使用して切った歯肉・粘膜を合わせます。

 手順は非常にシンプルなので、通常は20分もあれば容易に終了します。ただし安全に確実に操作が行われることが最も大切なので、抜歯時間はあまり気にしないでください。

 抜歯は避けたいと考える人もいると思いますが、親知らずの治療を怠ると、顎骨に炎症をもたらす「骨髄炎」やうみが慢性的にたまる「嚢胞」、さらには顎骨が弱くなり起こる「(病的)骨折」に至る可能性があります。別の病態が併発すると、親知らずの治療以上に大規模な治療が必要になることは知っておいてほしいと思います。