富士通がついにメインフレーム事業からの撤退を発表。現在、同社のメインフレームを利用している企業に激震が走っている。しかし、レガシーシステムを刷新するには、単に新たなシステムを入れればいいというわけではなく、さらに2026年までに約半数の企業が刷新を諦めるという予測もある。特集『企業・銀行・官公庁・ITベンダー・コンサルが大騒ぎ! ヤバいDX 2023』(全13回)の#1では、レガシーシステムの大問題と、その「引っ越し需要」に群がるITベンダーやコンサルの思惑に迫る。(ダイヤモンド編集部 鈴木洋子)
「22年連続トップシェア企業」が
事業から撤退する超衝撃
富士通の顧客にとっては、ある意味「斬首」されるのに近い衝撃だったかもしれない。
2022年2月、富士通はメインフレーム(大型汎用コンピューター)の生産を30年で終了し、サポートも35年で終えることを発表した。「21年まで22年連続国内市場シェアNo.1」という文言は今の富士通のホームページに誇らしげに輝いている。その多くはメガバンクや大手メーカーの基幹ITシステムとして今も稼働を続けている。それが、あと約10年で事業として消えるのだ。ユーザー企業にとっては、経営問題にもつながる大事件である。
メインフレームとは、メーカー独自方式のハードに独自OS(基本ソフトウエア)、独自業務アプリケーションを積んだシステムのことだ。一度導入すると他社に乗り換えることが難しく、オープン化(一般的に技術的な仕様が公開されている普及型のOSやハードウエアを組み合わせたシステムにすること)が進む中で、出荷台数・市場も激減した。メーカーも18年に日立製作所が自前ハード生産から撤退し、世界でもIBMと富士通とNECしか残っていない。
そしてメインフレームは、レガシーシステム、つまり「複雑化・老朽化・ブラックボックス化した既存システム」の代表格とされてきた。「維持・運用などのコストが高止まりしている」「人材の高齢化」「システムが硬直化している」などとメインフレームに対してのユーザーの不満は多い。
ちなみにDX(デジタルトランスフォーメーション)ブームを生んだ経済産業省の「DXレポート」では、この「レガシーシステムが残存した場合、IT人材の引退やサポート終了等によるリスクの高まり等に伴う経済損失は、2025年以降、年間最大12兆円にのぼる可能性がある」とし、レガシーシステム、古いメインフレームからの脱却こそがDXだ、と言わんばかりの論調である。
こうした世論や市場の縮小からいっても、富士通の撤退は既定路線ではあったが、決定を受けて顧客は大騒ぎになった。富士通では「システム移行のノウハウを持つ専門組織が顧客のIT資産の可視化・スリム化などを進め、オープン化やクラウド化などのシステムの近代化を支援する」(富士通広報部)と、形ではサポートの姿勢を示している。
しかし、撤退発表から約1年がたつが「いまだ、富士通のメインフレームユーザーで今後どうしたらいいかがまったく分からず慌てている企業は数多くある」とガートナージャパンのディスティングイッシュトバイスプレジデントの亦賀忠明アナリストは言う。さらに、メインフレームの将来像や移行計画などについても、納得できる説明をベンダーから受けている、と感じているユーザーの方が少数派という結果が、ガートナーの調査では出ている。
富士通の既存顧客への対応が十分か否か、そしてメインフレーム顧客のレガシーマイグレーション、つまり「引っ越し」プロジェクトをちゃんと他社に渡さず自社で拾えているかは定かではない。
しかし、引っ越しによる大波は、ここかしこで起こっている。
取材を進めると、実はその引っ越しすらままならなくなりそうな企業が多数出てきそうなことも明らかになったのだ。さらに、一見レガシーとは縁のなさそうなオープンシステムでも、がんじがらめにはまり、実質、レガシーシステムと同じ悩みを抱える企業が多いことも見えてきた。次ページから詳しく見ていこう。