2位は4票で元ヤクルトの伊藤智仁。プロ11年間の大半が故障との戦いで通算37勝25セーブと際立った成績を残しているわけではないが、ルーキーイヤーの93年の活躍は衝撃だった。150キロを超える快速球、「真横に変化する」と形容された140キロ台のスライダーにプロの強打者たちがかすりもしない。見送れば大きく外れるボール球を空振りし、バッターボックスであぜんとした表情を浮かべる選手たちがたくさんいた。印象的だった試合は6月9日の巨人戦。8回までセ・リーグタイ記録の16奪三振で無失点に抑えるが0-0の9回2死で篠塚和典に被弾してサヨナラ負けを喫する。敗戦投手になったが、その快投で一気に名がとどろいた。
当時取材していた通信社記者は「伊藤智さんは凄かった。後にも先にもあんなスライダーを投げる投手は出てこないでしょう。社会人時代にバルセロナ五輪で3試合27奪三振をマークしましたが、対戦した米国の首脳陣が『イトウを今すぐ米国に連れて帰りたい。彼はメジャーでもエースになれる逸材』と話していました。故障がなければ球界を代表するエースになっていたでしょう」と懐かしむ。
そして、1位に輝いたのは江川卓。6票が集まった。江川には様々な見方がある。スポーツ紙デスクは「今のスピードガンで測ったら160キロ近く出ていたでしょう。手元でホップするような軌道で1人だけ異次元だった。カーブも織り交ぜて誰も打てない。ただ、強打者以外は本気で投げているようにも見えなくて。メジャーだったら眠っていた能力が引き出されたかもしれない」と語る。一方で、ネットメディアのライターは「江川と対戦した打者に聞くと、高校時代が一番衝撃的だったと口をそろえます。プロでも1シーズン平均で15勝を挙げていたが、高校卒業後に米国にわたっていたらどんな野球人生になっていたか。でも江川さんは飛行機が大の苦手なので、メジャーは選択肢になかったかもしれませんね」と苦笑いを浮かべる。
メジャーに挑戦することはなかったが、上記の選手たちが野球ファンに大きなロマンを抱かせたことは間違いない。(今川秀悟)
※AERA dot.より転載