統合報告書に求められる要素は
質・量ともに高度化

 2017年には、経産省が日本版統合報告の手引きともいえる「価値協創ガイダンス」を公表し、同年には年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)がESG投資を開始した。これをきっかけに、企業のESG情報開示への要請はさらに高まり、企業にとって「開示すべき」とされる情報の種類と量は膨張し、発行企業の担当者にとっては、コンテンツの「星取表をどう埋めるか」が大きなミッションとなってきた。

 2022年に発行された統合報告書の中で、伊藤忠商事とオムロンが日経アワード、WICIジャパン統合リポートアウォードの2冠を獲得した。その他の最高ランク受賞企業は以下の通りだが、統合報告書のボリュームは1社を除いて100ページ超と大作揃いだ。

評価される「統合報告書」作りに必要な根本理念

 これらの大作レポートは、財務・非財務開示の星取表を詳細に埋めているのだろうか。答えは否である。受賞企業のほとんどは財務・非財務の詳細データ集や法定開示書類などと統合報告書に繰り返しとなる掲載は回避し、自社の開示体系とWebページの掲載紹介などを積極的に行う方針が見て取れる。

 これらの企業が評価された理由を見てみると、「目指す姿が明確に示され、社会価値と企業価値の両立を目指す意欲が伝わる」「経営トップの強い意思が報告書全体と整合し、具体的かつシンプル」「経営変革を進める新CEOのメッセージの具体性と熱意、選任プロセスの開示は秀逸」「統合的思考で経営が実践され、中長期の価値創造力が各ステークホルダーとの関係で分かりやすく示されている」など、経営トップの取り組み姿勢や投資家にとって有用な情報が丁寧に開示されていることが挙げられている。(注3)

企業価値向上をどのように
伝えるかは自由演技で

 統合報告書は任意開示であり、開示フレームや指標は個社の判断に委ねられるが、重要なのは「どのようにして中長期的な企業価値を向上させるか」「持続的な企業活動を通して、いかに社会価値に貢献するか」を伝えることだ。

 読み手が投資家であれ、取引先であれ、従業員であれ、ステークホルダーにとって重要なのは、会社が持続的に事業活動を行い、企業価値を向上し続けることである。各種のフレームワークは、財務価値と社会価値を両立した企業価値向上を示すために必要な要素を整理しており、投資家にとっての比較可能性も考慮すると、これらを参考として利用することは我々も推奨するものである。

 しかし、星取表を埋めるように様々な項目を網羅して並べることは統合報告書における最優先事項ではない。企業の年次報告書として一定水準の開示項目をカバーすることは必要だが、外観的に判断できる企業活動とその成果のみであれば、既存のESG開示情報から確認することもできる。