技術中心の会社に、デザインを浸透させる
――デザインが全領域に関わっていくに当たって、事業部側からの反発はありませんでしたか。
もともと技術者が強い会社ですし、特に「BtoB製品にデザインなんか要らない」という感覚が根強かったのは確かです。ただ、そこは社長直轄組織になったおかげで非常にスムーズになりました。私たちからも「デザインでビジネスがこう変わる」と強くアピールして、おかげで事業部からのオーダーが一気に増えたのはいいんですが、こちらから営業しておいてキャパ的にさばき切れなくなって(笑)。今、急いで規模を拡大しているところです。
――デザイン部門の役割が広がると、デザイナーにもスキルの拡張が求められますね。
やはり「ありたい未来」を描ける人であってほしいですね。ただ表現するだけじゃなく、実現のために引っ張っていくリーダーシップも含めて。デザイナーって、やっぱり「感じ取る力」や「表現する力」が強い。それを自分のためだけに使うんじゃなくて、みんなと共有できる未来を描いて周りを巻き込んでほしい。ただの予想や空想じゃなく、「こうあるべき」「こうありたい」という未来を描くには、知識やスキルだけでなく信念も必要だと思うんです。
――19年の組織変革に当たって、橋本さんから「社長に掛け合った」というのはまさにそれですね。このときは、具体的にどのようなアクションを起こしたのでしょうか。
ちょうど馬立が社長に就任した年だったので、変革を提案するにはいいタイミングだと思って。当時の私には社長と話す機会なんてなかったんですが、馬立が「言いたいことがあればA4で1枚にまとめて送れ」と公言していたので、デザインの重要性を書いて出しました。
――A4たった1枚ですか。
そうです。ニコンの技術力を社会で生かし続けるためには、デザインを生かすべきだと。すると「面談しよう」という返事が来たので、馬立に直接説明しました。さらにその後、デザイン部まで来てもらって、デザインワークの広がりを見てもらったんです。文化祭みたいにズラーッと成果品を展示して。カメラはもちろん、産業機器のUIデザインとか、ソフトウエアのUXデザインとか、そのためのリサーチとか、パッケージやウェブサイト周りのコミュニケーションデザインとか……。それぞれ担当者が付いてしっかり説明して。すると「分かった、すぐやろう」と。