社長との対話を通じてビジョンを磨く

A4一枚から始まった、社長とデザイナーのブランド変革Photo by YUMIKO ASAKURA

――デザインセンター発足後も、経営層とのコミュニケーションは良好ですか。

 良いと思います。馬立とは2週間ごとに丸1時間マンツーマンで面談していますし……。

――え? 社長と1対1で? すごいですね。

「定期面談をやろう」と馬立から提案されたときは、私も「そんな……いいんですか?」って感じだったんですが、実際にやってみると、予定の30分を毎回超過してしまう。それで、1時間に延ばしてほしいと私から頼んで、今もそれが続いています。

――社長との面談では、どんなことを話すのでしょうか。 

 いろいろです。私から、他社のデザイン事例などを紹介して、実物を一緒に見に行ったこともありますし、承認してほしい案件をプレゼンすることもあります。雑談も多くて、読んだ本のこととか、「メタバース」や「インダストリー5.0」みたいなキーワードについて話したり、仮想空間と現実のギャップが広がったら人間はどうなるのか、といったテーマで議論したりとか……。進行中の中期経営計画のコンセプトに掲げた「人と機械の共創」についてもかなり議論しました。

――意見が対立することも……。

 ありますね。特にブランド戦略立案では何度も駄目出しを食らいました。デザイナーとしては、何でもシンプルで美しい言葉にまとめたくなるじゃないですか。すると、そんな単純なものじゃない、分かってないと。馬立はもともと「ブランド」という言葉を安易に使うことに懐疑的で、「お客さまが企業を体験することで形作られるのがブランドなのだから、事業の実態こそが大事だ。ブランドありきはおかしい」と、ずいぶん言われました。

――どのように落としどころをつくったのでしょうか。

 言葉だけではなく、ビジュアルなりムービーなり、具体的なコンテンツで対話することですね。そこで表現したものが経営者の思いとちゃんと一致していたら納得してもらえます。今年1月に米国ラスベガスで開催されたテクノロジーの見本市「CES 2023」でも、デザインセンターが責任部門になって「2030年のビジョン」を展示したんですが、馬立も会場まで足を運んでくれて「良かったんじゃないの」って。素っ気ない言い方でしたが、あ、悪くなかったんだなと(笑)。