では、この原始人の脳を作るうえで一番カギになるのは何か。それは現代社会では「年齢相応の十分な睡眠時間」ということになります。講演会などで話をすると、皆さん「え? うちの子ちゃんと寝てますけど……」とおっしゃいます。実は、この「ちゃんと」が曲者なのです。

 皆さん「子どもは8時間寝ればいい」と思っていらっしゃる方が多いようです。5歳の幼児も小学校高学年と同じように考えています。大人の睡眠は6時間か7時間くらいだから、子どもは8時間だと言うわけです。しかし、年齢によって必要な睡眠時間、そして推奨される就寝時刻も決まっています。どちらも科学的・医学的な根拠に基づいたものです。

 まずは睡眠時間から見直しましょう。5歳児は11時間寝かせることが正しい発達のために必要と、小児科の教科書に書いてあります。加えて重要なのは睡眠の「時間帯」です。午後7時に就寝、午前6時起床が望ましいと考えます。

 しかし、現代日本の現状からいうと午後7時就寝はほとんどの家庭で不可能に近いので、私は午後8時就寝、午前6時起床の10時間を目指すようにお願いしています。その理由は、原始人が「太陽が沈んだら寝る」「太陽が昇ったら起きる」からです。ちなみに小学生の場合、教科書的には10時間の睡眠時間を推奨していますが、私は午後9時就寝、午前6時起床の9時間睡眠を目指してもらうようにお話ししています。

「うちの子ちゃんと寝てます」という家庭の状況をよく聞いてみると、寝る時刻が23時以降だったりします。また寝たように見えて寝返りが多いなど浅い眠りだったり、おねしょして夜中に起きることもあり、深く正しく眠っていません。そうなってしまうと、脳は健全に育っていないと考えられます。

 日が昇る朝6時前後に起きて活動を開始し、日が沈む午後7時前後に活動を終えて8時には眠りにつく。この睡眠のゴールデンタイムは、昼行性の動物である人間の子ども、原始人にとって不可欠な脳育ての基礎と言えます。