アステラス製薬トップ交代直前に中国がスパイ疑いで社員を拘束!船出を襲った嵐の内情Photo:Diamond
*本記事は医薬経済ONLINEからの転載です。

 視聴率が今ひとつ伸びない放映中のNHK大河ドラマのタイトルをもじれば、「どうする直樹?」といった塩梅になってきた。安川健司前社長から岡村直樹新社長への5年ぶりトップ交代というタイミングで、自社の50歳代の幹部社員A氏が中国の国家保安局により突如、北京市内で拘束され、日中間の政治問題に巻き込まれてしまったアステラス製薬を指してである。身柄を押さえられて1カ月が経過した。だが、「中国国内の刑法や反スパイ法に違反した疑いがある」(中国外務省)と説明された以外、詳細は不明で、憶測は飛び交うものの、事態に進展は見られない。

 いきなり渦中の人となったA氏は、旧山之内製薬の出身で、中国での駐在経験が延べ20年以上という同社でも屈指の中国通とされる。現在の肩書は特別顧問。長年、北京政府との間で事業推進上の窓口役を務めただけでなく、中国に進出する日系企業などで構成される経済団体「中国日本商会」の副会長として、現地日本人コミュニティーにおけるいわゆる“顔役”を果たしてきた。

 法治よりも人治が優先されると言われる中国で、A氏が誇る華麗な人脈は、業界の枠を越えて重宝されてきた。側聞すると、本人もそうして「頼り」にされるのが好きだったようだ。アステラスが中国市場の売上高倍増をめざし、19年春に打ち出した「グレーターチャイナ」戦略を実質的に指南したのもA氏とされる。そんな、在北京におけるキーパーソンが駐在を終え、中国を離れる直前にスパイ呼ばわりをされて「捕まった」のだから、衝撃の大きさは、日本の国内でのほほんと暮らす外部の大多数の人間には、伺い知れないレベルであろうと思われる。

 それにしてもスパイとは、剣呑である。プレイボーイの工作員が秘密兵器と美女を味方に巨悪を倒すという活劇映画が、現実に繰り広げられている国際諜報活動の世界像とはまったく異なるものだという点は、ここで語るまでもない。しからば、嫌疑は産業スパイかと言うと、それもまた想像し難い。