「数よりも質」に拍車がかかった
日本の半導体産業
さて、話はリアルな世界に戻って、かつて日本は1980年代に半導体大国とも呼ばれ、当時はDRAMというメモリでは世界最強の生産量を誇り、半導体メーカーのランキング上位は漏れなく日本企業が占めていた。しかし、日米貿易摩擦の中で日本はアメリカから「半導体価格のダンピング」という言いがかりに近い圧力をかけられた。いわゆるスーパー301条による報復をちらつかされた日本政府は、日米半導体協定を締結。これにより、日本は価格決定権を奪われ、従来のように量産品を安く大量に市場に供給することができなくなった。
このことが一つの契機になっているのかもしれないが、その後の日本企業のエレクトロニクス製品は、数よりも質を追う傾向に拍車がかかった。半導体においてもDRAMのような、規模の経済性が強く働く単純な装置産業においては、日の丸連合として再編されたエルピーダメモリが中途半端な事業展開により、米国マイクロンテクノロジーに買収されてしまった。
ロジック半導体を作るルネサスエレクトロニクスにしても、車載用半導体ではトップシェアではあるものの、半導体メーカー全体としては15位とかつての半導体大国の面影はない。
DRAMでは韓国が残存者利益をとって大量生産を行っているし、台湾は世界最大のロジック半導体のファウンドリー(半導体製造に特化した企業)を抱えている。もはや日米半導体協定もないのだが、日本は数を取り戻そうとはしない。
これまでも太陽光パネル、液晶パネル、リチウムイオン電池などで同じ傾向が見られた。どのメーカーも世界最大のシェアを目指すというのではなく、技術で差別化をしていたずらに数を追わないという。新たに設立された先端半導体のRapidusもそうだ。極端に大規模な設備を作るのではなく、ほどほどの規模の設備で少量多品種のニーズに応えるという。超高性能な武器で反撃しようというあたり、先述した連邦軍のV作戦に似てはいないだろうか。