再び、現実の世界に戻ろう。ガンダムがフィクションであるところの一つに、モビルスーツ開発で圧倒的に進んでいたジオンに対して、後発の連邦軍がV作戦でジオンを圧倒する超モビルスーツを作ってしまうということがある。これには違和感がある。

 Rapidusの話だが、Rapidusはビヨンド2ナノの超最先端半導体を作るという。先端プロセス技術を持つIBMや先端半導体製造装置の技術を持つベルギーの研究所imecとの協力体制をつくるというので、無理な話ではないのかもしれないが、現状の日本では40ナノクラスのプロセスの半導体しか独力では作ることができていない。今度熊本に建設するTSMCとソニー、デンソーとの合弁工場が26ナノレベルという。

 そのTSMCは5ナノ、3ナノの製造を行っている。ちなみに26ナノというのはiPhone5のチップセットレベル、5ナノはiPhone14のチップセットレベルのプロセスである。これだけ海外勢と技術的な差がありながら、日本の企業が本当に2ナノの開発に成功するのであろうか。

 半導体は膨大な設備投資と、研究開発費というこれまた膨大な固定費を要する産業である。研究開発にも設備投資にも莫大な費用を必要とする。こうした莫大な費用を賄えるのは、既存の半導体事業で数を売って儲けている企業ではないだろうか。

Rapidusが作るべきは
ガンダムではなくジムではないか

 Rapidusはラボレベルではガンダムのような超高性能半導体を作ることはできるかもしれない。中規模な設備での量産もできるかもしれない。しかし、それで国際的な半導体競争において、日本がしっかりと収益を確保し、持続的に研究開発費や設備投資を稼ぐことができるだろうか。Rapidusが作ろうとしているのは、ドムやゲルググなど、性能は良いけれども戦局を変えるほどの物量になっていないモビルスーツではないだろうか。

 繰り返しになるが、半導体産業は莫大な研究開発と設備投資という巨額な固定費を必要とする産業である。持続的に投資を続けるためには、しっかりと数を売っていく必要がある。Rapidusに限らず、日本のエレクトロニクス産業は、技術に逃げて数に挑戦しない悪い癖がついているように思える。日本が作るべきはガンダムではなく、量産型のジムのほうではないだろうか。

(早稲田大学大学院 経営管理研究科 教授 長内 厚)