戦場で底力を発揮するのは
「シャア専用」よりも「量産型」
筆者は先日の記事「ジオングに脚をつけたがる日本企業が、中国企業に後れを取る理由」で、アニメ『機動戦士ガンダム』に登場するモビルスーツ(架空の戦闘ロボット)、ジオングを引き合いに出し、80%の完成度を良しとする中国のIT産業と比較した日本企業の課題を論じた。
今回は、ガンダム第1作となる「ファーストガンダム」から、日中の製造業の経営に示唆を与える考察を、もう1つ紹介しよう。
ガンダムという作品の中で、主人公アムロ・レイの乗るガンダムや、ライバルのシャア・アズナブルの乗る特別仕様のモビルスーツ(「シャア専用」と呼ばれる)は、局地的な戦いでは威力を発揮したものの、戦略的には大きな意味がなかったのではないかと筆者は思う。
地球連邦軍が劣勢を挽回したのは、連邦軍本部ジャブロー戦で投入された量産型モビルスーツ、ジムの登場以降である。最終戦となった宇宙要塞ア・バオア・クー攻防で連邦・ジオン両軍が戦わせたモビルスーツの多くは、連邦のジムとジオンのザクであった。ザクは物語の当初から登場する量産型モビルスーツである。
この話が何を示唆するかといえば、トップエンドの技術力を誇示する機器は目立つし、メーカーの技術的優位性を示すのには向いているが、市場での戦いの趨勢を決するのはむしろトップエンドではなく、量産型モデルだということだ。
たとえば、スマートフォン市場の黎明期はアップルのiPhoneのように、トップエンドの商品が市場を切り拓いてきた。これはどのような製品市場でも、同じことだろう。しかし市場の成長とともに、企業の収益を下支えし、次の開発投資の原資を生み出すのは、いつもミドルからローエンドといった、いわゆる量産型モデルである。
サムスン電子のgalaxyシリーズも、日本ではトップエンドしか市場に投入されていないので、彼らがスマートフォンのトップメーカーとしてどのようなビジネスをしているのか、その全貌は日本からは見えにくい。しかし、サムスンのスマホ事業の収益を支えているのは、新興国市場における量産型モデルである。