とはいえ、最初の緊急事態宣言の頃には特に、リアルに出社することがままなりませんでした。そうした中で、リモートでのコミュニケーション、コラボレーションを支援すべく、さまざまなオンラインツールが登場しています。また、NTTコミュニケーションズの「リモートワーク ハンドブック」のような方法論もいろいろと公開されました。こうした方法論やツールにより、各社とも工夫を凝らしてやりくりしていったという状況があります。

生産性・創造性の測定は
そもそも簡単ではない

 時は流れ、日本においてもマスク着用のルールが「個人の判断」に変わり、以前ほどではありませんが出社率も増えてきました。日本だけでなく海外でもそうですが、こうなると企業としては従業員を出社させたがります。かたや従業員の側は、出社したいという人ももちろんいますが、リモートワークを続けたい、あるいはリモートワークを選択肢として残したいと考える人も多く、そこにせめぎ合いが生じます。

 このせめぎ合いは、企業・従業員の両者とも客観的な測定データなどの根拠がない、経験をもとにしたフワッとした言葉による空中戦で行われることがほとんどです。根拠があったとしても定性的なサーベイをもとにするのが関の山ではないでしょうか。その背景には「個人と組織のパフォーマンス測定は難しい」というポイントがあります。

 仮にパフォーマンスが生産性と創造性の足し算で表せるとしても、その生産性や創造性の測定が難しい。まだ測定できそうな生産性にしても「生産性は労働時間で置き換えられる」といわれているぐらいなので、労働時間によらずに生産性の高さを測ることは難しいでしょう。ましてや創造性は、もっと測定が難しいはずです。このため「やっぱり机が隣り合わせでなければ創造的な仕事はできない」といわれると、反論がしにくかったりするのです。

 個々人のパフォーマンスの測定も難しいですが、組織のパフォーマンスの測定はさらに難しいでしょう。組織のパフォーマンスは個人のパフォーマンスの掛け合わせによって決まっていきます。ところが個々人のパフォーマンスをどう掛け合わせて、どのような変数を与えれば組織パフォーマンスを表す数式になるのかは、全く分かっていません。

 前回記事『異動や入社で迎える新メンバーを戦力化する、オンボーディングの重要性』で紹介したように、哲学者のアリストテレスは「全体は部分の総和に勝る」という言葉を残したとされています。組織のパフォーマンスは個人のパフォーマンスの単なる足し算ではありません。それがどう成り立っているのかが分からない限り、「全体が部分の総和に勝る」ための必須条件が「リアルに机を隣り合わせて顔を見て話すこと」だとは言えないと思うのです。