企業間取引には、いわゆる上下関係がある時が多い。製造業でいえば長らく、完成品(やそれに近い製品)を作るための部品や材料を調達する側の企業が“上”で、部材を納品する側が“下”だった。本稿では、調達側と仕入れ先と定義しよう。この関係が今、激変している。(未来調達研究所 坂口孝則)
「下請けには勝てない」、変わる調達側と仕入れ先の攻防
「上司から、『変に逆らうんじゃない!』ってきつく言われてるんですよ」。筆者が、ある企業の調達部門の社員から聞いた話だ。逆らってはいけない相手は上司ではない、「仕入れ先」である。
かつて、というか割と最近まで、「仕入れ先の社員が、調達する企業の社員に逆らわない」ことが常識だった。しかし今、その常識は激変し、立場が逆転しているという。以下、筆者が知る最近の傾向を凝縮してまとめたパターンを紹介しよう。
ある日突然、仕入れ先が、調達側に「値上げさせてください」と要求する。調達側が理由を問うと、「材料費が3割ほど上がっているんですよね」と仕入れ先。しかし、調達側は、その上昇額を過剰に思う。
100円の製品がある。材料費は多めに見積もっても2割=20円。その材料費が3割上がったら20円×30%=6円のコスト上昇となるはずだ。ところが、目の前にいる仕入れ先は10円のアップを要求している。
調達側は反論する。「さすがに10円は上がりすぎではないでしょうか」。
仕入れ先の返答パターンは次の二つだ。
「実は、御社に対してこの製品はこれまでもうけが出ていなかったんです。正直に言うと、その分を取り返したいんです。さらに言えば、これまで請求できていなかった物流コストアップなどもあります。それらを含めると、6円ではなく10円なんです」
「この10円アップは社内で『必達』と言われています。もし、認めてもらえないなら、もう供給を続けることはできません。だから、どうしても認めてほしいんです」
これに対して、調達側の反論パターンも二つある。
「まあ確かに、もしかするともうけが出ていなかったのかもしれない。けれど、御社全体が全くもうかっていないわけではなく、むしろ平均以上にもうかっている製品があるはず。もうかっていない製品だけを議論にするのは間違いでは? そもそもこの製品、おたくから売り込んできたんでしょう。実はもうけが出てなかったからその分を取り返したいとか言われたって…」
「値上げに“不退転”の意志だということは、わかりましたよ。ただ、これまで原材料が下落していたタイミングで、私たちが値下げを依頼したことがありますか? ないですよね? 決して、値上げを認めたくないわけではなく、適正な価格を査定したいんですけど…」
これが現在、世の中で繰り広げられている、仕入れ先と調達側の攻防だ。しかし、それでも調達側は、「変に逆らうんじゃない!」と言われているらしい。なぜだろうか。