「ESG」「女性活躍」「健康経営」など、利益やキャッシュフロー以外の非財務情報を重視した投資が注目を浴びている。一方で、こういった「意識高い系」の投資は必ずしもリターンに直結しないという批判も根強い。特集『注目テーマをメッタ斬り!“人気株”の勝者・敗者』(全18回)の#11では、ESG投資の実態を明らかにしながら、複数の指標を掛け合わせた今後有望なESG銘柄を紹介する。(ダイヤモンド編集部 篭島裕亮)
ESG投資など意識高い系投資は
投資成績の改善につながらない?
「石炭銘柄やギャンブル、たばこ、アルコールには投資をしない」「環境意識やダイバーシティ(多様性)など非財務情報も重視する」――。
2000年代以降、海外の機関投資家を中心に、利益やキャッシュフローなどの財務情報だけでなく非財務情報を重視した投資が増えている。その代表的存在が「ESG投資」だ。
日本でもGPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)が17年度から「ESG指数」に基づく株式投資を始めたこともあり、注目度が向上。ESGを打ち出した投資信託やETFも増えている。
ESGとは、環境(Environment)・社会(Social)・企業統治(Governance)の英語の頭文字を合わせた言葉だ。ESG投資は、利益やキャッシュフローなどの財務情報だけでなく、非財務情報であるESGを重視して投資をするのが特徴である。
「一般的なESG投資は、武器やたばこ、化石燃料などを投資対象から外す『ネガティブスクリーニング』など7種類ある。近年増加しているのが財務だけでなくESG情報を含めて評価する『ESGインテグレーション』だ」(東海東京調査センターの中村貴司シニアストラテジスト)
またESGの「S」ではダイバーシティや労働環境が重要項目となるが、東京証券取引所も女性活躍を推進する「なでしこ銘柄」や「健康経営銘柄」を発表している。
これらの理念が重要であることは間違いないが、近年は批判の声も少なくない。一つはESGを尊重するとしながらも、実質的には業績を重視した銘柄選びをしている投信やETFなど「ESGウォッシュ」に対する批判。もう一つは「そもそも投資成績の改善につながっていない」という批判である。
実際、ESGを標榜する投資信託はTOPIX(東証株価指数)に勝てていない。20年末からのTOPIXとESGファンド5本の推移を比較すると、TOPIXを上回っているのは1本だけなのだ。
「理念の正統性と株価が一致するとは限らない。もっと言えば、これらの投信は指数を上回る収益を目指しているのではなく、企業にESGの取り組みを促すことが目的になっているケースもある」(東海東京調査センターの池本卓麻マーケットアナリスト)
東京証券取引所と経済産業省が選定している、女性活躍の推進に積極的ななでしこ銘柄や従業員等の健康管理に戦略的に取り組む健康経営銘柄についても見てみよう。今回はクオンツ分析の第一人者であるニッセイアセットマネジメント投資工学開発センター長の吉野貴晶氏に、発表のあった月の翌月から1年間投資した場合、対TOPIXでどれだけ勝っているかを分析してもらった。
結論から言うと、なでしこ銘柄の新規採用企業は堅調だったものの、なでしこに連続で選ばれた銘柄や健康経営銘柄についてはTOPIXを明確に上回ることはできなかった。
吉野氏は「なでしこの連続採用銘柄については、株価に織り込まれている可能性がある。健康経営については、従業員の健康課題を意識することは大事だが、短期的にはコストになる」と指摘する。
ではESGや女性活躍は投資で使えないのか?実は必ずしもそうではない。なぜならば、他の指標を組み合わせることでパフォーマンスの改善が期待できるとともに、昨年以降は米国の金利上昇がESG銘柄やなでしこ銘柄に逆風となった側面もあるからだ。
あくまでも避けるべきなのは「すでに割高水準まで評価された、業績が悪いESG銘柄」である。次ページでは複数の条件をクリアした、ESGスコアが高く株価も上昇が期待できる銘柄リストを発表するので、ぜひ参考にしてほしい。