早大野球部・小宮山監督が
「四球でガッツポーズ」を認めた訳
小宮山監督はこの四球を、「ヒット以上の価値がある」と称賛した。
「2ストライクを取られるまでは好きな球をフルスイング。好球必打でいい。ただし追い込まれたら粘る。フォアボールを視野に入れて、ファウルを打ってしぶとく食らいつく」
そう指示を出していた。投手心理を勘案しての打撃戦略である。
「同じ出塁でも全然違う。クリーンヒットを打たれたとき、ピッチャーはやられたな、と思う。仕方ないと気持ちを切り替えて次の打者へ向かう。しかし、簡単に2ストライクまで追い込んでフォアボールを選ばれると、心底がっくりくる」
粘っての四球はヒット以上の価値――そう小宮山は部員に教え込んだのだった。だからこそのガッツポーズなのだ。
そういった打者のしぶとい姿勢が徹底され、ここまでの早稲田打線はあっさりとアウトになることが少なくなったのである。
投手起用についても、監督采配が図に当たる。
立教との1回戦、エース加藤から抑えの伊藤樹のリレーで危なげなく勝利。
そして翌日の2回戦の先発は――4年生の飯塚脩人。
スターティングラインナップを告げるアナウンスに、立教ベンチもスタンドの早稲田ファンも驚いたはずである。
飯塚は千葉・習志野高校時代に2度の甲子園出場を果たし、侍ジャパンU18代表にも選ばれている。いわば鳴り物入りで入部した逸材だ。だが1年時からケガに悩まされ、長く雌伏の時を過ごした。
リーグ戦登板は2回のみ。2021年春の東大1回戦、そして2022年秋の明治2回戦。いずれも3分の2回のショートリリーフだった。昨秋、明治戦以降はベンチ入りできず、学生服姿で試合を観戦していた。二階席でトレーナーの土橋恵秀とともにゲームに見入る姿があった。二人は時折通路に立ち、ピッチングフォームを確かめ合っていた。
その飯塚を、立教2回戦の先発で使った。
死ぬ気でがんばります、と表情を引き締める飯塚の奮起に期待し、小宮山は立ち上がりのマウンドを任せたのである。2回を投げ切れば良し、との思いだった。
これには早稲田ナインも驚いた。