――日本の企業でも、生産性を上げたり、新しい商品を作りだしたり、そうした取り組みは既に内製化していると思うんですが、あえて御社のような第三者、外部からのアプローチが必要な理由は何ですか。

 本当にいいアイデアは、多数決で見つからないと思うんですね。多数決で認識できるアイデアの市場は、常にレッドオーシャンです。重要なのは、社内の多くの人は認知できない、隠れている潜在ニーズを見つけることです。

 そこでうちのツールを使うと何ができるかっていうと、社員がおのおのの意見を出したときに、その評価方法が多数決じゃないんです。多数決だと点数が低くても、組織の中で目利き力がある人たちから共通して良いと言われているものは、一般の人からは認知されていない隠れた潜在ニーズである可能性が高い。そういうアイデアをちゃんと抽出しプロトタイプを使って検証しましょうということが、うちのアルゴリズムを使うとできるんです。

 過去の事例をご紹介します。ある製造大手では新規事業のアイデアが1つ採択されるのは6カ月に1個くらいのペースでしたが、弊社のツールを使って、アイデアを募集して分析をしたら、まず採択までの期間が1カ月に減ったんですよね。かつ、通ったアイデアの数が3個になった。ROIを18倍と言っていいのかどうかは分からないですけど、6カ月に1個しか通らなかったのが、1カ月で3つも通るようになったんです。

 また最近のテーマである人的資本経営で利用されることも多いです。オーナーシップとかリーダーシップを発揮しなさいって言われても、具体的にどういう行動なのか分からないことがあると思います。なので例えば、過去半年間でリーダーシップを発揮した経験をヒアリングして、「これは当社のリーダーシップといえますか」という評価基準で社員同士で匿名の相互評価をやっていくと、みんなが共感するリーダーシップ行動というのがスコアリングされて出てくる。求められるリーダーシップ像がはっきりしてくるんですね。

AI時代に生き残る人材とは?

――松本さんはAIを使った投資ファンドを経営されていましたが、AI化の時代にビジネスマンが生き残るための条件は何だと思いますか。

 私が最初にAIに触れたのは、新卒で2001年にゴールドマン・サックスに入った時です。当時のゴールドマンでは、アルゴリズムを基にしたトレードのシステムの構築をしていました。トレードの自動化の精度が上がってきていて、金融の世界では、少なくとも20年以上前にAI化の波が押し寄せていました。

 その結果、多くのトレーダーが削減されていったんですよね。そんな中で、AI時代に生き残るような人は誰なのかって考えたとき、やっぱりAIには不可能なことをできなければいけない。

 AIは、目的を与えたときに回答を見つけるのは得意です。問いを作ったら大抵のことは答えられるんですよ。でも何を聞くか、問いそのものによって、答えの精度がすごく変わる。ChatGPTもそうで、問いのデザインがすごく重要になってくる。

 しかし、AIは問いのデザインが苦手なんです。この問いのデザインこそ、ビジネスの創造性だと思うんですよ。言われたことを解決するだけではイノベーションは生まれない。どんな潜在ニーズや潜在課題を解けばいいのかを創造することこそ、AIにはできないことだと思います。

 例えば携帯電話だって、ガラケーでみんな満足してたのに、iPhoneみたいな大きい画面でアプリケーションを使ったらみんな喜ぶんじゃないかという仮説を定義し、それをどうやって実現するかという問いの設計をしたのが、スティーブ・ジョブズだったりします。

 問題は、問いのデザイン力を高める教育って日本ではされてないんですよ。皆さんご存じの通り、学校の授業や受験では基本的に問題を与えられて時間内に解くトレーニングしかしてなくて。それってまさにAIが得意な領域なので、その教育を受けているだけの人はAIに駆逐されると思います。