来年の総選挙に向けて高まる
野党の勝利を望む声

 4月の初めに韓国ギャラップが実施した世論調査によれば、来年の総選挙では「政府けん制のため野党候補が多数当選すべき」が50%と、「政府支援のために与党候補が勝つべき」の36%を上回っていた。1カ月前の世論調査では、前者の政府けん制論が44%、後者の政府支援論が42%であり、それと比べると政府支援論者が少なくなった。

 特に20代、30代で政府けん制論が大幅に上回っていたことに注意すべきである。20代30代の支持率は、昨年3月の大統領選挙で与野党候補がほぼ拮抗(きっこう)していた。この世代は浮動票が多く、その人々が野党系に回ることは、韓国国内の雰囲気を代弁しているといえ、尹政権にとっては大きな痛手である。

 現在の韓国の国会は最大野党の民主党が169議席、野党「正義党」6議席、与党「国民の力」が115議席と、野党系が圧倒的に優勢であり、尹政権として国会が関与する政策、特に労組、教育、年金改革などは思うに任せない状況である。さらに総選挙で敗北することになれば、尹政権の求心力は低下し、改革は停滞する。

 尹錫悦大統領は日韓関係の改善に力を入れており、同政権の期間中にこれまでの岸田政権との合意をほごにするとは思えないが、韓国の次期大統領が文在寅(ムン・ジェイン)大統領のような人物となれば状況は違ってくる。日韓関係改善を次期政権につなぐためにも尹錫悦大統領の政権基盤を強固なものにし、文政権の再現を防ぐことが重要である。

 また、日韓関係改善を妨害してきた市民団体や労組の改革を前進させるためにも、尹政権の基盤強化は必須である。

 前述の4月の世論調査で、野党候補が多数当選すべきとの声が高まったのは、尹錫悦大統領による元朝鮮半島出身労働者(元徴用工)問題の解決案発表と尹錫悦大統領の訪日以降のことである。これらにより、尹錫悦大統領が「日本への屈従外交」などの批判を押し切って、日韓関係改善を進めたのは、尹錫悦大統領の独善との見方が広まった。

 そのため今回の岸田首相の訪韓で韓国に対する配慮を示し、韓国にとってもよいことであると思わせるのは尹錫悦大統領にとって強力な援護射撃となるだろうし、それは日韓関係の安定化、北朝鮮の核開発に対抗するための日韓、日米韓の連携という日本自身の国益のためにも重要である。