韓国国民の最大の関心事は
首相の歴史認識と原発汚染水問題

 今回の日韓首脳会談における韓国国内の主要関心事は、岸田首相が3月の首脳会談で表明した歴史認識が韓国では不十分と受け止めており、それに加え「お詫びと反省」に言及するかであった。

 共同記者会見で岸田首相は、歴史認識について1998年の日韓共同宣言を含め、「歴代内閣の立場を引き継ぐと明確にした。この立場は今後もゆるがない」と述べた。

 さらに元徴用工の訴訟問題をめぐり、韓国側が示した解決策の履行が進んでいることについて、「多くの方々が過去のつらい記憶を忘れずとも、未来のために心を開いてくれたことに胸を打たれた」「当時、厳しい環境の下で多数の方々が大変苦しい思いをされたことに心が痛む思いだ」と述べた。

 これは3月に表明した歴史認識の根幹は維持し、歴代政権の立場は「今後もゆるがない」と述べているものの、「心が痛む」との言葉が新たに加わっている。

 安倍晋三首相(当時)の戦後70周年談話の「おわびと反省」が自身の言葉でないと韓国のメディアで批判されたとき、朴槿恵(パク・クネ)大統領(当時)は、「日本の歴代政権の認識は今後も変わらないと述べたことをむしろ評価する」と述べたところ、メディアの論調が大きく肯定的に変わったことがある。

 また、12年前のシャトル外交では、慰安婦問題をめぐり韓国政府が日本と真剣な交渉をしないのは違憲との最高裁判決を受け、李明博(イ・ミョンバク)大統領(当時)が野田佳彦首相(当時)に対し「慰安婦に対し温かい言葉をかけてほしい」と要請したことがあった。

 こうしたやり取りに鑑み、歴史問題に対するおわびと反省に直接踏み込まないとの原則を順守しつつ、尹政権に歩み寄る姿勢を示したのが「今後もゆるがない」と「心が痛む」という2つの発言だろう。

 朝日新聞は、こうした踏み込んだ発言の背景には「尹大統領と共に未来志向の日韓関係を作りたいという狙いがある」と評価した。

 また、中央日報は「岸田首相が尹大統領とG7サミットの際、韓国人原爆犠牲者慰霊碑に一緒に参拝することにしたのも、事実上、元徴用工として原爆で犠牲になった人に対する謝罪の意味だとの解釈が出ている」と伝えている。

 岸田首相の発言に対し、国民の力の劉相凡(ユ・サンボム)報道官は「『歴史問題が完全に整理されなければ未来志向に向け一歩も踏み出すことができないという認識から抜け出さなければならない』という尹大統領の発言のように、『国民の力』と尹錫悦政権は過去と現在を冷徹に直視し同時に未来と国益に向けた道を国民と共に歩んでいきたい」と明らかにした。

 また、福島第一原発の処理水の放出が、韓国国内で非常に機微な問題となっていることに鑑み、会談において日本は韓国の専門家視察団の派遣を受け入れることで合意した。

 岸田首相は、「国際原子力機関(IAEA)のレビューを受けながら透明性を維持していく」とし、「日本の首相として自国民と韓国国民の健康や海洋環境に悪影響を及ぼす形での放出を認めない」と説明した。

 尹錫悦大統領は「科学に基づいた客観的な検証が行われるべきだとする韓国国民の要求を踏まえ、意味ある措置が取られることを期待する」と要請した。