書影『ビジネス教養としての半導体』『ビジネス教養としての半導体』(幻冬舎)
高乗正行 著

 特に米中半導体戦争は世界を巻き込み深刻化しています。2019年5月、米国政府は中国の通信機器最大手のファーウェイ(華為技術)を、2020年12月には中国の半導体ファウンドリの最大手であるSMIC(中芯国際集成電路製造)を、事実上の取引禁止リストであるエンティティリストに追加しました。リストに記載された企業に対し、米国企業が生産した半導体の取引を禁じたり、米国で発明された技術を使わせないなどの制裁を行うというのです。SMICで作られた半導体が、パキスタンでの核開発や弾道ミサイル開発に使われているほか中国やロシアの軍事的発展に関与しており、米国の国家安全保障や外交政策の利益に反しているというのが理由でした。一方、ファーウェイがリストに加えられた理由は、5G通信インフラ機器にバックドア(正規の手続きを経ずにシステム内部に侵入できるソフトウェア上の出入口のこと)を仕掛けられて、国家の機密情報や個人情報などが漏洩してしまうリスクが高いことです。ファーウェイの通信機器に搭載する半導体の多くは、ファーウェイの子会社であるファブレス半導体メーカー(工場を持たない半導体設計専業企業)の中国ハイシリコン(海思半体)が設計し、SMICなどが製造しています。ファーウェイがリストに加えられた結果、ハイシリコンやSMICといった半導体関連企業も大きな影響を受けることになりました。

 このほかにも米国は半導体に関して、次から次へと新たな手を打ってきています。例えばTSMCや韓国サムスン電子などには米国国内に半導体製造工場を建設するよう求めました。TSMCやサムスン電子にとっては、米国に工場を建設するよりは自国内に工場を建設したほうが投資額を抑えられるのですが、政府調達に使用される半導体は新しく米国に建設する工場で作らなければ買い取らないなど、米国がさまざまな政策を打ち出しているため、応じざるを得ない状況にあります。

 もちろん、日本もただ手をこまねいているわけではありません。ソニーセミコンダクタソリューションズやデンソーといった企業の出資のもと、熊本県にTSMCの半導体工場を誘致するなど、さまざまな方策を打ち出しています。

 このような政治的な動きを読み解くうえでも、半導体の知識が欠かせません。半導体の市場規模は今後もますます大きくなり、2030年には1兆ドル規模に到達するだろうといわれています。ビジネスパーソンとして半導体のことを知らないと恥をかくというのは決して誇張した表現ではないのです。