「課題解決にはコマツの製品を使わなくてもいい」
いったん自社の製品やサービスから離れてみた

コマツ・四家さん四家千佳史(しけ・ちかし)
コマツ執行役員スマートコンストラクション推進本部長 (兼)EARTHBRAIN代表取締役会長。1968年福島県生まれ、97年にBIGRENTAL(本社:福島県郡山市/建設機械レンタル業)を社員3人で創業。2008年、社員数700人までに成長した同社と、コマツレンタル(コマツ100%出資)が経営統合、同時に代表取締役社長に就任。15年1月にコマツ執行役員スマートコンストラクション推進本部長に就任、21年7月にEARTHBRAIN代表取締役会長に就任(兼務)、現在に至る

四家 顧客が工事を受注してから施主に納めるまでの、全てのプロセスの中で課題を見つけて、顧客と一緒に解決していく。そういう「コト」を見つめる活動をしていくことにしました。

 ものづくりの企業としては極めてユニークだと思いますが、いったん、自分たちの製品やサービスから離れようと試みたのです。

 顧客の課題解決には、別にコマツの製品を使わなくてもいい。そのような思いで2015年にスタートしたのが、私が推進本部長を務めている「スマートコンストラクション」です。

 発足当時は顧客の課題すらわからず、もちろん解決方法も持っていませんでした。そこで、とにかく顧客の現場に行き、オペレーションを理解することで課題を理解しようということから始めました。

 昨今、開発現場では、小単位で実装とテストを繰り返す「アジャイル開発」とよくいわれますが、我々はアジャイルにするしかなかった。とにかく現場で見つけたものを一つ一つ、100点満点ではなくてもいいので、10点でも20点でも、なるべく早く顧客の課題を解決していくことを目指しました。

 一方で、「建設業における労働力不足」という問題解決のため、我々が進めていたこうした活動に対し、とにかく、建設業の生産性や安全をデジタル技術で高めようと、政府も大変強い後押しをしてくれました。

 建設現場の生産活動全体が忠実にデジタル空間で再現されれば、顧客が課題を見つけられる。そして、最適な施工計画がデジタル上のシミュレーションで出てくる。そのような世界が来れば、生産性は大きく改善され、結果として労働力不足の解消になるだろう。我々はそのような仮説を立て、検証することにしました。

 検証場所には、産業全体のつながりが一番進んでいるとみられるドイツを選びました。「アウトバーン」と呼ばれる自動車高速道路の工事現場に約2年間通い、顧客が受注前にどのようなことをしたのか、受注後から施工中まで何をしているのか。そうしたことを、できるだけシンプルに抽出していきました。

 すると、施工現場では、ベテランの現場監督が目で見て、頭で考えて、大体の進捗を把握する。それをバックオフィスにいる管理者にメールや電話で伝え、管理者が頭で考えて指示を出す。その全てが担当者の経験知で進められていたという事実がわかりました。現場、生産活動、施工の全体が全てデジタル化されて忠実に再現されたとき、このプロセスは大きく変わってきます。

 これまでは、現場で見つけた課題の解決にがむしゃらだったのですが、少し立ち止まり、とにかく施工現場の生産活動を全てデジタル空間で忠実に再現する。それが最終的には、最適な施工計画として現場で実行されることで、新たな価値が生まれてくる。

 こういった高速PDCAを回し、デジタル空間と現実世界の施工現場がつなげる。それが「デジタルトランスフォーメーション(DX)・スマートコンストラクション」です。

 コマツにおけるものづくりの会社の戦略は、モノの進化と顧客のコトの最適化により、施工を大きく変革させることです。それによって、安全で生産性の高いスマートでクリーンな未来の現場という、大きな価値が創造されます。そうして「顧客のDX」を実現していくためにも、「コマツのDX」が必要なのです。

 こうして見ると、モノの終点がコトの起点ということがわかります。コマツはものづくりを100年間続けてきましたが、人事制度を含めた全てのルールがモノを基準にしていました。そのため、スピード感を持ってコトの開発を推進できるかというと、おそらく難しいのではないかという結論に至りました。

 コトの開発はコマツの文化と異なるため、完全に「出島化」しようということで、私が所属するスマートコンストラクション推進本部の開発部隊のほぼ9割を分社化しました。

 異文化であるが故に、コマツが持っていないさまざまな技術を使っていかなければいけない。そのため、外部の企業とジョイントベンチャーという形にして、2021年にEARTHBRAINという会社を設立しました。

 今後、さまざまなチャレンジをしながら軌道修正していくことになると思いますが、今はとにかく、全く違う文化をEARTHBRAINの中でつくり、モノはこれまで通り、しっかりとコマツの中で作っていく。その一方で、顧客のコトの最適化、安全性・生産性を高めていく。そのような企画や開発を行っていきます。

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