北朝鮮の核・ミサイル懸念により
日米韓の安保協力体制はさらに深化
そうなると中国にとっての懸念は、韓国がTHAADを追加配備しないかという問題である。その契機となりそうなのが、北朝鮮のミサイルを追跡する目的で、韓国軍と在韓米軍、自衛隊と在日米軍がそれぞれ使用するレーダーなどの指揮統制システムを、ハワイにある米国の太平洋軍司令部を通じてする(日韓の間は同盟でないので、米国が間に入って情報を共有する)動きを示していることである。その協力関係強化が、将来のミサイル防衛への一層の協力に結び付くのではないかとの警戒心が出てくるのは必然である。
日米韓の安保協力体制は、北朝鮮の核・ミサイルの懸念が深まるにつれてますます深化するだろう。その時、中国がどのように出てくるか予断を許さない。
一方、中国にとって悩ましいのは、中韓貿易の縮小に伴い、中国の韓国に対する経済的圧力が今までのようには効かなくなっていることである。今後、中国はどのような圧力を行使するだろうか。東アジアの安保情勢は危険な方向に向かっているのかもしれない。
THAADの追加配備問題をめぐり
中韓の確執が高まる可能性
中国外務省の汪文斌報道官は9日の定例会見で、「北朝鮮のミサイル脅威に対する韓米日の連携強化が韓国政府のいわゆる『THAAD3不(THAAD追加配備・米国ミサイル防衛参加・日米韓軍事同盟参加の三つを行わない)』政策にそむくと見るかとの質問を受けた。
これに対し汪報道官は、昨年8月の中韓外相会談の「合意」を想起しながら、「韓国側が双方の共同認識に確実に立脚し、引き続きこの問題を適切に処理し、よく管理・統制し、両国関係への不必要な妨害と影響を避けることを希望する」と述べた。
汪報道官はさらに、「朝鮮半島問題を口実に軍事協力を強化するのは、冷戦の残滓(ざんし)を解消して朝鮮半島平和体制を進展させるうえで役に立たない」と述べた。
朴槿恵政権が在韓米軍基地にTHAAD配備措置を取ったことに対する中国の経済的報復措置を負担に感じた文在寅政権は2017年、「THAAD3不」政策を表明した。
それでも当時の文在寅政権は、これはあくまでも政府の立場表明であり、中国との約束や合意ではないと主張したが、中国は昨年8月の王毅・朴振韓中外相会談で、韓国側は「3不」に加えてTHAADの運用を制限するという「1限」の約束もあったとして、「3不1限」を韓国政府が国際社会に宣言したという立場を取っている。
THAAD問題が再度浮上したのは、尹錫悦氏が大統領選挙運動期間中にフェイスブックに「THAAD追加配備」という書き込みを行ったからである。尹錫悦政権は今のところTHAAD追加配備の動きは見せていないが、中国の王毅外相は、昨年8月の韓国の朴振外相との会談で、「3不」は当然の要求だと主張し、加えて「1限」も約束したとしている。中韓の立場の違いは明らかであり、韓国にとって「3不1限」は約束でも合意でもない。
そもそも中国はTHAADについて、米国が中国を狙って韓国に配備した兵器システムと理解しており、THAADに使われる「Xバンドレーダー」が中国の東部と北東部地域の軍事活動を監視するように使われると見ている。
THAADは中国の安全保障上の利害に直結する問題である。THAADの追加配備問題をめぐる中韓の確執は今後一層高まる可能性があり、その時の中国の報復がどのようなものになるか予断を許さない。