韓国外務省は台湾問題について
中国の非難を受け付けず
中国メディアと韓国政府の論争は、尹錫悦大統領と中国外交部の論争に端を発している。
4月、尹錫悦大統領が訪米前にロイターとのインタビューで「結局は(台湾の緊張高揚は)力による現状変更を図るために起きたもので、我々は国際社会とともに力による現状変更に絶対反対する立場」と述べた。
これに対し、中国外務省の汪報道官は「台湾問題は純粋に中国人自身のこと」「他人からの口出しは容認しない」と激しく批判した。
しかし、韓国外務省は、中国外務省の報道官が韓国首脳の発言に対し「口出しを容認しない」と述べたのは、「中国という国の品格を疑わざるを得ない礼を欠いた行為である」として駐韓中国大使を招致し抗議した。こうした抗議は中国にとって驚きだったと思う。しかし、これでひるまないのが中国である。
中国の秦剛外相は、尹錫悦大統領の発言に対し「台湾問題で火遊びするものは必ず火で焼け焦げて死ぬだろう」と述べ非難した。
これに対し韓国外務省は21日に声明を出し「わが国首脳が『力による現状変更に反対する』という国際社会の普遍的な原則に言及し、中国側の非礼を追求したものだ」と述べ、中国が国際的な原則を逸脱しながら誹謗中傷したことを指摘して、秦外相の主張をはねのけた。
韓国は以前のように中国の脅しにはひるまなくなっている。しかも中韓のあつれきは、外務省からメディアに含めたものにまで拡散している。これは従来の韓国の姿勢とは全く異なるものであり、中国が強く出れば出るほど、韓国は日米との協力に活路を見いだしていくだろう。
しかし、中国は、常に力で相手をねじ伏せることばかりやってきた国である。中国は韓国に対してはますます強硬に出て、韓国はますます中国から離れていくことになるのではないか。
習近平体制が韓国に対して
いら立っているというのは本当か
時事通信は、尹錫悦大統領が日本との関係改善を進めていることに対し、習近平体制がいら立っていると報じている。中国は「米国の差し金」で日韓が接近していると見て、日米韓連携が対中包囲網の強化につながることを警戒していると分析している。
中国は尹錫悦大統領の一連の外交に神経をとがらせており、中国外務省は「徒党を組んで対立をあおっている」との批判を繰り返している。尹錫悦大統領の台湾問題に関する発言に対しても不満は強い。
しかし、尹錫悦大統領の自由・民主主義陣営との協力強化方針は変わることがないだろう。
中国はこれまで、文在寅大統領の親中外交を軽んじてきたが、その付けが回ってきていることを理解していない。文在寅大統領が2017年に中国を3泊4日の日程で訪問した際、全10回の食事のうち、中国指導部との食事は2回(習近平主席と、陳敏璽・重慶市党書記)のみで、残りは「一人飯」であったのは、中国の韓国軽視の表れだとの指摘もある。
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文在寅氏時代の韓国は従順な中国の「朝貢国」であったが、今は独自の国益と原則を有する国家になったということである。中国がいら立つのは筋違いだろう。
中国は韓国との関係について、お互いに独立した国益を有する国同士であることを理解できない。これでは対等な関係は生まれないだろう。
中国が尊重するのは「力のある国」のみであることを肝に銘じ、日米との一層の関係強化を図ることが、韓国の国益となろう。
(元駐韓国特命全権大使 武藤正敏)