こうした心の病というものは、誰にでも起こり得るものだ。そして、それは治ることもあるということを、彼女から教わった。もちろん、休職者を企業が排除することは容易である。しかし、原因は何かと詮索しても、早く治せるものでもない。復帰を待つには、我慢と理解が必要だ。

 私も下小岩支店で預金担当課課長として勤務していた時、同僚と支店長の共謀で私の印鑑を隠されたことがある。トップの営業成績を上げていた他部署の同僚が、自分のミスを私の部下のせいにしたので、通常の業務として支店長に報告した。ところが、成績至上主義の支店長は同僚を庇護し、私を追放するという判断を下した。行員の命でもある私の印鑑を「窃盗」したのである。

 窃盗はもちろん違法行為だ。このあまりにもつらく苦しい出来事は、拙著『メガバンク銀行員ぐだぐだ日記』に記してある。ネットでの反響は大きく、多くの書き込みを目にした。

 つらかった。すぐにでも辞めてしまえばいいと思ったが、なんとか退職せずに済んだ。下小岩支店に行きたくない。何度も引き返そうと思い、それでも店に向かった原動力は何だったのか。家族を養わなければならないという責任感?逃げられるものなら逃げてしまいたい衝動と、このまま苦しみを受け入れてしまう無力さとの葛藤にもがいていた。

書影『メガバンク銀行員ぐだぐだ日記』(三五館シンシャ)『メガバンク銀行員ぐだぐだ日記』(三五館シンシャ)
目黒冬弥 著

 その苦しみは、パワハラ支店長の異動により救われた。「やまない雨はない」という言葉が本当だったことを、今でも覚えている。だが、今メンタルで苦しんでいる人にその言葉はふさわしくはないだろう。何の慰めにもならないからだ。

 職場の仲間は他人にすぎない。上司は精神科医ではない。休職者を「いない人」として扱っていれば、前述の彼女も復帰できなかっただろう。

 自分は必要とされていない、役に立ってないと感じてしまわないよう、部下の皆が私の知らないところで適切な行動を取ってくれていたのだろう。

 そんな部下たちは、今日も思い思いに気だるそうに出社してくる。一日の始まりを、この世の終わりみたいな顔をして。しかし、仲間を思いやる気持ちを知り、私はすっかり彼女たちを見直した。朝の覇気のなさをとやかく考えるのはやめて、少しは大目に見よう。

(現役行員 目黒冬弥)