需給に応じて価格が変動するダイナミックプライシングが国内外で普及しつつある。この値付けは企業・消費者の双方にメリットをもたらし得る半面、価格が高騰すると顧客離れにつながるリスクもある。実際に米国では、ボウリングの利用料金が「2時間5万円」と高騰し、消費者の反感を買った。日本でも旅行やスポーツなどの業界で導入されているが、顧客からの反発はゼロではない。この手法が広く受け入れられるには何が必要なのか。独自調査の結果を基に、適切な運用方法について考察する。(プライシングスタジオ代表取締役 高橋嘉尋)
ダイナミックプライシングの仕組みに
消費者は意外と好意的?
需要と供給に応じて高頻度で価格が変動するダイナミックプライシング。近年その導入先は航空券の代金、テーマパークの入場料、ホテルの宿泊費、スポーツ観戦のチケット代など身近な分野にまで拡大した。
その結果、生活と密接に関わる分野でも、「定価」ではなくいわゆる「時価」という概念が広まりつつある。はたしてダイナミックプライシングは、このままあらゆるサービス分野で導入が進み、定着するのだろうか。
筆者が代表を務めるプライシングスタジオでは今回、ダイナミックプライシングの今後の動向を探るべく、消費者710人に対してオンライン調査を実施した。調査結果を基に消費者の意識をひも解いてみよう。
「ダイナミックプライシングについてどのような印象を持つか」という設問では、「いい印象である」と答えた人が全体の40%と、「悪い印象である」と答えた6.4%を大きく上回った。この結果は筆者にとって意外なものだった。
というのも、ダイナミックプライシングに関するニュースの中には、企業の収益性向上だけが強調されるケースも見受けられる。そのため、「企業本位の値上げ施策」という悪印象を持つ消費者も少なくないのではないかと推察していたからだ。
またダイナミックプライシングでは、消費者が購入するタイミングによって得をすることも損をすることも起こり得る。損をした経験の方が記憶に残りやすく、その結果ダイナミックプライシング自体にネガティブな印象を抱く人が多いのではないかとも考えていたのだ。
しかし前述の通り、調査結果は仮説とは異なるものだった。理由については、需要が少ないタイミングを選べば商品やサービスを通常よりもお得な価格で利用できたり、繁忙期には需要が分散して混雑が緩和されたりという、消費者メリットの理解が広がっていることが考えられる。
ただ、ダイナミックプライシングの仕組み自体を好意的に受け止めていても、企業が身近な商品に適用するとなると歓迎一色ではないようだ。